the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

Golden/vol.2 side of Lotus




 僕の持つ肩書きは、侯爵と領主と上院議員と正騎士と冒険家協会所属の剣士、それから家長と兄と養父……結構あるな。


 あと、裏の顔が一つ。


「二年程前に足を負傷したというのを理由に、ほとんど表には出てこないらしい。専ら下の者を動かしているようだな」

 騒々しいアリアンの片隅の木陰であまり売れそうにもないアイテムを適当に並べた露店を広げていると、千代木がよく冷えたアロエのジュースを持ってきて横に座る。

「成程、万一バレても自分は知らぬ存ぜぬで通すつもりなのね。典型的汚いジジイねー、教会が消したがるはずだわ」
「教会が? それはまた相当だな」
「ほんともう面白いぐらいに絵に描いたような悪人だからねぇ。私腹は肥やすわ人は殺すわ薬に関わるわ、聖職者の風上にも置けない見事な悪行三昧よ。人間らしいっちゃらしいけど」
「そんな汚点なら消したくもなるな。……それにしても、彼はそれなりに長いこと今の地位にいるようだけど、何故今になって?」
「んー……実はねー……結構何年も前から何っ回も依頼きてたのよねー……」

 急に気まずそうに口篭る。

「何で受けなかった?」
「そこそこ地位のある人間が『標的』なのに提示額がスズメの涙もいいとこ程度だったからよ。こちとらわざわざ命張ってまで慈善事業やってんじゃねえってんだよ全く」

 ふとしたときに戻る言葉遣い。これは相当揉めたな。しかも報酬はギリギリ最低ラインとみた。

「だからちょっと……ね、今回の謝礼は……いや払える、払えるんだけどいつもより、ね……………………ごめんマジごめん今後一年間奢るから」

 あぁ、ワケアリだったか。

「別に金銭目当てでやってるわけじゃないから構わないよ。今週の木曜にまたアウグスタに行く。他に情報がないか探ってみよう」
「ほんとー? 助かるうれしー! あっ、あっ、じゃあ旅費出す!」
「いやだからいいってついでだし」
「最近よく行くのね、先週行ったばかりじゃない。なぁに、今度はワインでも始めるつもり?」
「葡萄の栽培の関係で蜂が欲しいって話があってね。まぁ、うちの領地で育てられる品種があるなら、葡萄の蜂蜜なんていうのも始めてもいいかなとは考えているけど」
「あんたんとこの養蜂めっちゃ安定してるもんねぇ。品質もいいし。…………ねぇ、もうちょっと安くならない? そしたらこっちも仕入れ量増やせるしー。カセレス産蜂蜜って人気あるから値が張るのにすーぐ売り切れちゃうのよねぇ、問い合わせも結構あってさー」
「ただでさえ直接卸してコストカットしてるのにこれ以上? きみは鬼か」
「ケチ」
「どっちが」


 始末屋ギルド『瑠璃蜘蛛』の諜報員。



     ‐Golden/vol.2 side of Lotus‐



 千代木が暗殺稼業の家の跡取りと知ったのは、本当に偶然だった。

 剣の稽古をしに軍の訓練所に行ったその帰り、妙に城下が騒がしかった。誰かが殺された、とかそんな話が聞こえる。
 いつも通る道がその騒動で通れなくなっていたので、乗っていた馬から降りて細い路地を抜けることにした。馬が興奮して暴れる可能性もあるから、そういう場所に近付かないようにするという理由もあった。
 勝手知ったるビガプールの城下といっても、やっぱり慣れない道はできるだけ通りたくない。もうだいぶ暗くなっていたし、早く道を抜けようと小走りで馬を引いていると、突然馬が止まった。

「どうした、エクレール」

 馬が気にする方を見る。


 血痕。

 見た瞬間、それが何なのか察しが付く。

 危険だ――ということは、理解していたつもりだった。
 それなのに、勝手に足がそれを辿る。


 目を疑うというのは、こういうことをいうのだと初めて思った。

「……何で、よりによってお前に見つかるかな」

 黒いフード付きマントの裾で血糊を拭った小刀をしまう千代木は、僕を見ると苦笑いした。



 それからとにかく無我夢中だった。

 明日返しに行くと言って千代木のマントを僕の練習用の装備が入った袋に詰め込み、千代木を後ろに乗せて馬を走らせ、テレポーターの前まで送った。家に帰ってすぐ、こっそり懇意にしているメイドに頼み込んでマントを洗濯してもらった。

 不思議と、夕食が喉を通らないということはなかった。
 ただ、自分が何を食べているのかというのはよくわからなかった。



 翌日、僕は一人で千代木の家にマントを届けに行った。
 もしかしたら、消されるかもしれない――そんな考えはあったものの、何故か随分と落ち着いていた。

 中に通され、千代木の祖父母と話をした。

 そのとき、貴族間でしか知りえない情報を渡す代わりに、僕個人の暗殺依頼が入った場合それを揉み消し、護る――という契約が交わされた。


 どうして十四の身空でそんなことを受け入れたか?
 老若男女、善悪に関わらず、報酬に見合った内容であれば依頼を受け、「標的」を必ず消すという『瑠璃蜘蛛』の掟は、どんな状況下に陥っても、どんな手段を使っても生き延びると決めていた僕にとって心地よいものだったからだ。



 僕には、デヴェレイ家の力を今よりも強くするという目的があった。
 といっても、強くなりすぎてもいけない。曽祖父の代にそれで失敗している。
 適度に強く。そして適度に弱く見せかけて。
 とにかく、バランス良く。

 だから、利用できるものはとことん利用する。



 以来、僕は千代木と親密になっていった。
 共通の秘密を持つということと、お互いに「いずれ家を背負う者」であるという意識――あとは多分、フィーリングというものなんだろう。
 罰でファーストキスを奪われたというおぞましい過去はあれども、僕は千代木と一緒にいる時間が一番楽しいと思えた。


 心安らぐはずの家庭において、この上ない苦痛が存在するから尚更。





     <To be continued. → side of Chiyoki>





------------------------------


 ちょっといつもより加筆修正度うp


 お互いの内情を結構早い段階で知り合っちゃいました

 それまで同級生で同じギルドでわちゃわちゃしていただけの関係だったのが、ここから密なものに

 双方「跡取り」として育っているので、年齢より少し大人びていたのかなぁと思います





拍手

コメント

中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

カウンター

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

最新CM

[03/28 るん]
[11/22 アサルト]
[08/04 アカアオ]
[01/13 れぃす]
[07/07 ぜっさんはつばいt(ry]

ついったん

アクセス解析