the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第二話 Sweet intoxication



「…………!」
「だっ……大丈夫っ……!?」
「ご、ごめんグリシーヌ……逆に大丈夫? 頭とか打ってない?」
「はっ、はいっ!」
「そしてこれは……すごく変な体勢、ですよね」
「!!」
 そう、風散はグリシーヌの上に覆い被さるような形で倒れ込んでいた。密着しないように、というよりは己の体がそのままグリシーヌの上に落下しないようにと咄嗟に判断したのか、両腕と右足で何とか踏ん張ってはいるが、言われて気付いたグリシーヌは顔を真紅に染める。
「あああああああのっ」
「あー……ごめん変なこと言って……」
 ダメだ梅兄ちゃんに毒されてる、と目を逸らし決まり悪げに独白。僅かに照れも入っているようだ。
「ちょっと待って、すぐ退く」
 浮かせていた左足を着いた瞬間――
「ぃだっ!!」
 飛び退いて、
「のォおおおおおおおお!!!!」
 そのまま地面でゴロゴロ激しくのたうつ。グリシーヌは慌てて身を起こした。
「ふっ、風散くんっ!?」
 鮮やかな菫色の目に、涙が滲む。
「…………サイアク。捻挫した」
「えっ?」


     ‐Sweet intoxication‐


 杖をぎゅっと握り締めて、グリシーヌはチャージングをした。これから初めて、覚えたてのアースヒールを他人に行おうというのである。
 その緊張を感じ取ってか、風散も
「あの、期待してないわけじゃないけど……無理しなくていいよ。一応ファーストエイドも取ってるし」
 何となく遠慮がちになる。
 しかしグリシーヌは真剣だ。
「ただのアースヒールなら体力回復だけだけど……応用を利かせれば腫れも引くと思うの」
「応用?」
「アスヒはその名の通り大地の力を借りて回復させる魔法でしょう? だから水の持つ冷気を合わせて使ってみればいいんじゃないかなって」
「でも水属性の魔法って」
 水属性、と復唱して、グリシーヌは思案した。
「…………チリングタッチがうってつけかしら……」
「ちょ」
 風散から血の気が引いた。
「ま、待ってグリシーヌ! チリなんか使ったら逆に凍傷起こしちまう!」
「でも」
「『でも』じゃなくて! もっと他にあるだろ!? 霧とかさ!」
「……あぁ」
 グリシーヌは納得した。
「そういえばミスティックフォッグも覚えていたんだわ」
「もー……びっくりしたよ凍らされるかと思った」
 風散はグリシーヌと同職のソーティスと幼馴染みで親友である。年齢もレベルも近く、よく一緒に狩りに出かけていたのでウィザードのスキルについては多少の知識を持っていた。特にソーティスの得意とするコールド打撃魔法・チリングタッチは幾度となく傍で見ているだけに、その威力は嫌というほど知っているのだ。
「グリシーヌって時々結構怖いことしようとするよね」
 溜め息をつきながら左足を差し出す。いろいろな可能性について考えるのが楽しいということは元学者である自分もよく理解できるが、グリシーヌは穏やかな見た目に反してなかなか過激で突拍子もないアイディアを提案することが多い。狩りをするときも杖で豪快にチリングタッチを繰り出しているので、一緒に行動し出した当初は本当に貴族出身の元ポストドクターなのかと疑問を持ったくらいだ。
「そう、かしら?」
 きょとんとするグリシーヌ。
「風散くんも似たようなものだと思うけれど」
「俺は実験で部屋ぶっ飛ばしたことなんて一度もないよ」
「はぅ」
 ソーティスから聞いた話によると、グリシーヌは何度か危険な実験を行い教室を破壊したことがあるらしい。
「ご、ごめんなさい藤花先生……一緒にするなんておこがましい……」
「いや、だからやめて『先生』は」
「でも」
 グリシーヌが手をかざすと、ふわっ、と風散の左足のみを霧が包んだ。冷気が患部に心地よい。
「やっぱり風散くんは『藤花先生』なんだなって思うの。私よりも色んなことを知っていて、それを私に教えてくれて。確かに最初はそんな人が私よりもずっと年下だったなんて知ってびっくりしたけれど」
 連続して、アースヒール。優しい力を感じる。
「私が敬愛してやまない人だってことには、間違いないわ」
「…………何か、」
 双つのアメジストが間近まで迫って覗き込む。 
「俺のこと好きって言ってるみたいに聞こえるけど?」
「ふぇっ」
 真っ赤になって、後ずさる。
「そっ、そそそそそういう意味じゃっ、いやっ、あのっ、だからといって決して嫌いというのでもっ」
 慌てふためくグリシーヌを見て、風散は顔がにやけそうになるのを堪える。反応が面白いのでついからかってしまう。
「……確かに、ね」
 グリシーヌは一旦アースヒールを止めて、再度ミスティックフォッグをかけた。
「私は……『藤花・ティーニカ』に恋のような感情を抱いていたのだと思う」
 思い切った発言に、風散は首を傾げる。
「何で? 自分で言うのも何だけど、あんな変な論文ばっか書いてる奴だよ?」
「他の人にはない視点と……一見難しそうなことを『難しくないよ、楽しいよ』って伝えようとする文章が好きだったのね。論文って感情抜きのものだからどうしても堅苦しい印象になりがちだけど、私は何故かそう感じなかったの。そう言ったらみんな変な顔したけれど」
 そう言ってはにかむグリシーヌを見て――鳩尾の奥に違和感を感じた。
「……心拍数と血圧の上昇」
 小さく小さく呟くと、グリシーヌが覗き込む。
「え? 何て?」
「何でもなーい」
 両手を後ろにつき、勢いをつけてひょいと立ち上がる。左足はまだ少し痛むが、気にするほどでもない。
「ありがと、だいぶラクになった。あとは自分で何とかするから」
「え、でも、もう一回アスヒ」
「大丈夫だよ。ほら、もう日が落ちてきた。帰ろ、遅くなったらまたソーティスに怒られる!」


 グリシーヌと別れた風散は、ゆっくりと移動用飛行絨毯を進めていた。
「…………うーん」
 少し前まで訪れる度に顔を見るのが楽しみだった、ビガプール駐在のタウンテレポーター・セハのことを思い出す。
「……あれ」
 違和感。
 しかも、思い出していたはずのセハの顔は、いつの間にかグリシーヌに変わっていた。
「…………あぁ」

 そういうこと。

 結論に辿り着いたと同時に、兄・梅丸と生活を共にしているアパートの前に到着した。
 絨毯をポータル・スフィアーの中に収納して玄関のドアを開ける。途端、食欲をそそるスパイシーな香りが漂ってきたが、不思議といつものような急な空腹感に襲われることはなかった。
「ただいま」
「お帰り、テンション低いな腹減りすぎたか?」
 梅丸は背を向けたまま台所でフライパンを揺すっている。風散は帽子を取るとそのままダイニングの椅子に腰を下ろした。
 普段帰るなり騒々しく食事の催促をする弟が何も言わない――梅丸は不安を感じ振り返る。
「何だよ気味悪いな! どうした護衛相手と喧嘩でもしたのか!?」
「んーん」
 眉間に皺を寄せ、テーブルに頬杖をつき、風散がのたまった。
「恋、しちゃったかも」
「は!?」
 ぼぅっ、とフライパンから火が上がった。梅丸は慌てるが、幸い焼いていた肉が燃えたのではなく味付けに使用した葡萄酒に一瞬引火しただけだったようだ。
「風散……今お前何つった?」
「だからぁ、恋しちゃったかもー」
「って……護衛相手、すっげ年上って言ってなかったか?」
「うん。十コ上」
「セハちゃんはどうした」
「わかんない」
「…………はぁん」
 弟の衝撃告白に戸惑いながら、梅丸は調理を続行した。
「何つったっけ、総太郎の先輩だべ確か」
「グリシーヌ。グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイ」
「デヴェレイ……」
 梅丸の手が止まった。察して風散が顔を上げる。
「何? 知ってんの?」
「……いや」
 フライパンを火から下ろし、皿に盛り付ける。
「ビガプールの貴族か」
「うん。兄ちゃんが侯爵なんだって。背ェ高いけど何か可愛い。あと胸おっきい」
「何だお前巨乳好きだったんか」
「えー違うけどー」


 いつも通りの調子で会話をする背中の向こうで兄の表情が険しくなっていたのに、風散は全く気付いていなかった。





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 のほほんと始まったはずの話が、2話目にして早々に不穏な空気を醸し出しております

 まさかこれがアレであんなふうになろうとは!(大仰な煽り





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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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