the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第七話 一筋の光明




 私の名が「グレース・フラムスティード」から「グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイ」に変わったのは、十一歳のときだった。



     ‐一筋の光明‐



 雨の中、修道服の少女は傘を上げて空を見た。薄いグレーの空に、教会の屋根の十字が突き刺さるように立っている。
「お嬢さま。こちらへ」
 乳母に促され、教会の中へと入る。
 祭壇の前に安置された棺。その脇には、少女よりも幾つか年上の喪服をまとった少年が立っていた。
「きみが、グリシーヌだね」
 少年がどこか寂しそうな微笑を向けた。
「初めまして……ロテュスさま」
 修道服の裾を摘んで挨拶すると、ロテュスは困ったように笑った。
「そんな、改まらなくていいんだよ。きみは僕の妹なんだから」
「でも、私」
「父が危なくなった時点で早く知らせるべきだったんだけど……きみの所在がなかなか掴めなくて」
 ロテュスはグリシーヌの手を取ると、棺の前へと導いた。ゆっくりと蓋を開く。
「肺の病でね。判明してから、進行がとても早かった。一昨年まではとても元気だったんだよ」
 やせ細り、髪も肌も真っ白になった男が横たわっていた。
「ごめん。生きているうちに会わせてあげられればよかった」
「いいえ。こうして、お姿を拝見できただけでも。……あの、奥さまは……ご挨拶だけでも」
 ロテュスの表情が曇る。
「会わない方がいい」
「え」
「母は心の病なんだ」


 翌日、曇り空の中、棺の主――侯爵ディステル・セルジュ・デヴェレイの葬儀が執り行われた。
 デヴェレイ家は数十年前までは王に近しかったが、その頃の当主が何者かによって暗殺されてからは力を失い、今では侯爵とは名ばかりの小役人に等しい地位にある。葬儀の参列者もさほど多くはない。
 目立たないところにいた方がいい、というロテュスの助言で、グリシーヌは叔母であり乳母のウェスパシアと共に参列者のやや後方にいた。
 棺が埋められるのがようやく見える。父とはいっても、ほとんど知らない相手だ。涙も出ない。
 前日に見た顔を思い出そうとしても、薄暗かったせいかあまり印象に残っていなかった。昨日初めて会った兄はとても優しくしてくれたが、彼と似ていたのだろうか。
 ふと、兄の方を見る。
(あの人が……)
 ロテュスの傍にいる憔悴した黒いドレスの女性が、ずっと泣き続けている。恐らく彼女がデヴェレイ候の奥方なのだろう。 
 きれいな人だ、と思った。
「ウェスパシア。やっぱり私、奥さまにお悔やみ申し上げたいわ」
「おやめになった方が。ロテュスさまもそう仰られたでしょう?」
「でも」
 と――目が合った。
 次の瞬間、
「…………ウェスパシア!」
 それまで泣き崩れていたはずの侯爵夫人が、鬼の形相でこちらに近付いてきた。ロテュスが慌てて追ってくる。
「母上っ!」
「よくもぬけぬけと!」
 今にも殴りかかろうとする夫人とウェスパシアの間に、グリシーヌは割って入った。
「やめて下さい奥さま!」
「お嬢さまっ、お下がり下さい!」
「お嬢……? ふっ、そう。あなたがグリシーヌ……邪魔よ!」
 思い切り、殴られた。
 痩せたグリシーヌの体は軽々と飛ばされた。怒りのせいなのか、とても傷心の貴婦人のものとは思えない力だ。
「近付かないでちょうだい、汚らわしい!」
 ものすごい剣幕に、参列者が騒然となる。
「グリシーヌ!」
 ロテュスが駆け寄る。突然のことへの衝撃と恐怖のあまり言葉も出ずに震えるグリシーヌの体を強く抱き締める。
「母上、グリシーヌは私の妹です! 父上がそう仰ったではありませんか!」
「お黙りなさいロテュス! ウェスパシア……わたくしは許さない、貴女のしたことを。絶対に、許さない……」
「オルタンシア……さま……」
「誰か! 母上をお連れしろ!」
 従者が数人出てきて喚きながら暴れる夫人を連れ出していく。ロテュスはグリシーヌの肩を抱いたまま、参列者に向かって頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ありません……行こう、グリシーヌ。ウェスパシアも」
 侯爵の葬儀はごたごたしたまま強制的に終了した。
 冷たい風に、打たれた頬が痛む。


 教会の中に戻ると、ロテュスは一通の手紙をグリシーヌに手渡した。
「父の遺書だ」
 封のされていない封筒を開けて、手紙を開く。かさり、と乾いた音が響いた。
 無言のまま一通り目を通すと、グリシーヌは手紙を元通りに収める。
「……お受けできかねます」
「グリシーヌ」
「だって、奥さまが」
 遺書にはこう書いてあった――グリシーヌをデヴェレイ家の娘として迎えるように、と。
 しかし夫人の取り乱しようを思えば、素直に受け入れることなどできない。彼女と同じ屋根の下で生活するということは、偏に彼女の心を乱し続ける行為に他ならない。自分の存在のせいでそうなってしまうのは、グリシーヌにとっては不本意だった。
「きみの気持ちはわからないでもない。でも僕は、きみにうちに来てほしい」
 ロテュスの手が、そっとグリシーヌの頭を撫でる。
「僕は前から、きみの存在を知っていた。父上から妹がいると聞かされて、嬉しかったんだ。ずっと一人だったから」
「ひとり?」
 思わず隣のウェスパシアを見る。ウェスパシアは頷いた。
「ロテュスさまはデヴェレイ家の嫡子。侯爵の後継者として早くから奥さまの……オルタンシアさまの手を離れておいでだったのです」
「長年きみには不自由な思いをさせてしまった。父はもう亡くなってしまったけれど、代わりに僕に何かさせてほしい」
 自分ものと同じ、明るい紫の瞳。しかしその美しい色には翳りが見える。
 グリシーヌは自身が貴族の庶子だということ、それが理由で名前が二つあること、そして神聖都市アウグスタの修道院にいさせられていることを知っていた。しかし寂しいと思ったことはない。ウェスパシアが常に傍にいたし、修道女たちや近所にある大聖堂の神父も可愛がってくれていたからだ。きっとロテュスが想像しているよりは、ずっと恵まれた生活を送っている。
 しかしロテュスは――デヴェレイ家の跡取りとして幼い頃から厳しく育てられたという。他に兄弟もなく、両親は忙しく、グリシーヌにとってのウェスパシアのように頼れる存在もいなかったのだろう。彼のどこか寂しげな表情は、父が亡くなったからというだけではないのだとグリシーヌは悟った。

 自分が頷けば、この人はもっと明るい顔をしてくれるだろうか?

 その考えは甘かったと後に知ることになる。


 グリシーヌがデヴェレイ家に移り数ヶ月、ロテュスは兄としてとてもよくしてくれた。
 以前デヴェレイ家のメイドとして働いていたというウェスパシアにも、再度仕事を与えてくれた。継母となる夫人のことは気になるが、ウェスパシアが一緒に屋敷に入ってくれることがグリシーヌにとっては心強かった。

 しかし――


「お嬢さま!」
 ウェスパシアが気付いたときにはもう遅かった。グリシーヌの髪からは紅茶が滴り、ドレスには染みとカップの破片が付着している。額が割れて血も出ていた。
 オルタンシアは冷たく笑うと、
「ウェスパシア。片付けておいてちょうだい」
 言い残してその場を立ち去る。ウェスパシアはロテュスのところへ持っていくはずだったティーセットを置いてハンカチを取り出し、グリシーヌの額の血を拭う。
「血がっ……や、火傷はっ……」
 グリシーヌは笑う。
「大丈夫よウェスパシア。それより早くお兄さまにお茶を」
「……お嬢さま」
 見ていられない――そんな顔をして、ウェスパシアはグリシーヌを抱き締めた。
「やはりここを出ましょう。ロテュスさまには申し訳ないけれど、貴女がそんな目に遭うなんて」
「ウェスパシア。私見たの。お兄さまも、とても苦しい思いをされている」


 屋敷に来て一月も経たない頃だった。

 夜中にふと目が覚め、水を一杯飲みたくなり厨房へ向かう途中、兄の部屋から光が漏れているのが見えた。
 何かを激しく叩きつける音と共に、狂った獣のような唸り声と呻き声が聞こえる――夫人と兄のものだ。

 怖くて覗くことはできなかった。喉の渇きなど一瞬で忘れ、慌てて自室に戻りベッドの中に潜り込んだ。


 虐待を受けているのは、自分だけではない。
 それどころか――実子であるはずの兄の方が、もっとひどいことをされているなんて。

「私ばかりが逃げるなんて、そんなことできない」
「グリシーヌ!」
「大丈夫。貴女のお陰で私は体はとっても丈夫だし、心だってそんなに弱くはないんだから。お茶を被ったぐらいじゃ何ともないわ」
 奥歯を噛み締めながらゆっくり離れるウェスパシアの頬に手を添えて笑う。
「大丈夫よ」

 兄は拠り所がほしかったのかもしれない。心の支えとなるものか、逃避のための存在なのかはわからないが。
 それでも、グリシーヌには兄を捨て置くことなどできなかった。
 ウェスパシアが自分にしてくれたように、兄の力になりたかった。


「お兄さま。私、ウィザードになろうと思うんです」
 屋敷に招かれて二年になろうという頃、グリシーヌはロテュスに打ち明けた。ロテュスの表情が曇る。
「え……?」
 それは、屋敷を出ることを意味していた。ウィザードの多くは、魔法都市スマグに行き学んで魔法を身に付ける。
「高位のウィザードになれば、ナクリエマでも高い官職に就くことができると聞きました。私がウィザードになれば、デヴェレイ侯爵家もかつてのように――」
「嫌だ」
 ロテュスの手が、グリシーヌの腕を掴む。
「行かないで……くれ」
「お兄さま」
 グリシーヌは、兄の目を真っ直ぐ見た。

 ロテュスの目には、光がない。

「私はこの二年、どうすればお兄さまの助けになれるか考えてきました。最初はウェスパシアが私の傍にいてくれたように、私もお兄さまの傍にいればいいのだろうと思っていたんです。でも」
 兄の手に触れる。
「貴方は今、私に依存しています。私は貴方を支えるどころか、かえって貴方の心を病ませてしまった」
 オルタンシアはグリシーヌとロテュスを虐待していた。が、それはずっと続いていたわけではない。
 半年ほど前から、オルタンシアは伏せるようになった。最初こそわけのわからないことを喚いたり、身の周りにあるものをむやみやたらに投げつけて壊したりしていたものの、最近では食事の回数も減り起き上がれなくなっているのだ。
 そんな彼女を母に持つロテュスは、確実に精神を磨り減らしていった。
 長い間自分を虐げてきた母。だからといって、このまま放っておくわけにもいかない――義務感もあったが、やはり母に向ける思慕の念が強かった。

 現在ではどうしようもない関係になってしまっているが、幼い頃はとても優しかったのだとロテュスはグリシーヌに洩らしたことがある。しかし昔仕えていたウェスパシアが言うには、そんな二人の姿は見たことがないという。恐らくそれは、ほんの一瞬あっただけのふれあいの時間がロテュスにとってとても大切な記憶として強く刻まれているのだろう。
 そんな母への思いがロテュスを縛り付け、それから逃れるために自分に優しく接しているのだとグリシーヌは察した。
 ロテュスは決して病的なまでに甘やかしてくるのではない。が――

 兄の生気のない目に気付いたときの妙な寒気。

 このままではいけない。

「お兄さま。この先ずっと、私にしがみ付いて生きていくおつもりですか?」
「…………」
「私は女です。いつかはここを出て、いずこかに嫁ぐことになるでしょう」
「嫌……だ……いやだ……」
 ぶつぶつと繰り返すロテュスの顔を、グリシーヌは両手で包み込んだ。
「お兄さまはその歳でよくこの家を守っていると私は思います。だからしっかりなさって下さいとは言いません。ただ、もう奥さまと私に縛られてはいけない」
 涙が、溢れ出る。
「もう少し、自由に生きて」
 その一言で、
「グリシーヌ……」
 ロテュスは憑き物が落ちたような顔になった。青白い血色はそのままだが、僅かに目に光が戻る。
「すまない……グリシーヌ、僕、は……」
 その場に崩れるロテュスを、グリシーヌは優しく抱擁した。
「大丈夫。きっと……いえ、必ず戻ります。まだ私は貴方の恩に報いていませんもの」
「恩だなんて……そんな」
「以前お兄さまは仰いましたよね。私という妹がいたことが嬉しかったって。私も同じです。貴方という兄がいてくれてよかった」
 今、自分の傍にいてくれるのは、ウェスパシアだけではない。ロテュスの存在もあったからこそ、グリシーヌは強くいられた。
「確かに、あのまま修道院で生きていた方が平和だったと思います。でも、貴方が外の世界を教えてくれたから――それを力に変えていきたい。その力を、貴方のために使わせて下さい」
「でも……」
 しゃくり上げながら、ロテュスは小さく言う。
「高位ウィザードになるには……相当勉強しなくちゃ……」
「あらお兄さま、じゃあ私に軍人になれと言うんですか?」
 顔を上げたロテュスは、きょとんとした。グリシーヌは思わず笑う。
「さっきも申し上げたでしょう? 私は女です。軍人になってのし上がる方が難しいわ」
「……確かに」
 ロテュスも吹き出す。
「お兄さま。私こう見えて勉強するのが大好きなんです。それにウィザードなら嫁いでも地位はほとんど揺るがないはず。大丈夫、絶対にウィザードになりますから」
「わかった」
 泣いてぐしゃぐしゃになってはいるが、心の戻った笑顔だ。
「すぐに手配する。頑張っておいで」
「はい。あ、お兄さま」
「何?」
「あの……ウェスパシアのこと、よろしくお願い致します」
「他ならぬきみの頼みなら」


 グリシーヌがスマグに居を移してから五年後、前デヴェレイ候夫人オルタンシアはこの世を去った。
 葬儀の際、
「おかしいな。哀しいはずなのに涙が出ない」
 ロテュスが苦笑しながら呟いたのが印象的だった。
 それでもどこかすっきりとした顔をしていたように見えたのは、実の母親に虐げられるという悪夢からようやく逃れられたという開放感からきていたのかもしれない。
 その後ロテュスは懸命に務めを果たし、ナクリエマ国内での地位を少しずつ上げながら固めていった。昔の勢いこそなかったが、デヴェレイ家は盛り返しつつあった。


 そして更に数年後、兄に言い渡される。

「グリシーヌ。きみにも好きなように生きてほしい」
 ロテュスは若くしてその手腕を買われ、政に関する議会に出席するまでになっていた。
「きみが勉学に励むことが好きなのは知っている。だからやめろとは言わない。けれど、もう無理してウィザードにならなくてもいいんだ」

 そこから先の言葉は、はっきりとは覚えていない。
 急に突き落とされた気分になった。
 きっと兄は、自分がウィザードになることよりも、然るべき家に嫁ぎ子を成し――という、「貴族の娘」として幸せな人生を歩んでほしいと思っているのだろう。
 が、グリシーヌは、兄が本当に自分のことを案じてくれている嬉しさよりも、虚しさを強く感じた。

 自分はもう必要とはされていないのか。
 だとすれば、これから何をすればいいのか。

 知識を叩き込もうとしても、頭に入らなくなった。


 そんなとき、一冊の書物に出会った。

「僕は虫とかちょっと苦手なんですけど……先輩にとっては面白いんじゃないかなって思って」
 単位取得のために研究の助手をしてくれていた後輩が差し出した分厚い本。その表紙には、『動物行動学からみる巨大ワームの生態』と書かれている。
 著者は藤花・ティーニカ――聞いたことのない名だった。
 気が向いたら読んでみると受け取り何となく読み始めたその本は、その後グリシーヌの「学ぶことを楽しむ心」を再燃させることになったのだが――



「ん」
 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。視界に入った見慣れぬ天井に一瞬戸惑うが、自分が何故ここにこうしているのか即座に思い出す。
「あぁ……」
 薄暗い中、手元に温もりを感じた。ふと横を見ると、風散が椅子に座ったままうつらうつらとしていた。まだ幼さの残る顔だ。
「……風散くん」
「ふぁっ! …………あ、目、覚めた? 大丈夫? どっか痛くない?」
 手をぎゅっと握られる。意外と大きく力強いと気付き、そのまま手を動かせなくなる。
「だ、大丈夫……あの、風散くんは……怪我とか、ない?」
「全然平気!」
「そう。よかった」
 安堵の溜め息を漏らすと、風散が心配そうに覗き込む。
「ほんとに、大丈夫?」
「どうして?」
「泣いた跡」
 それまでグリシーヌの手を握っていた手が、今度は目元に残る涙を拭った。
 ぞくっとして、次に顔が熱くなる。グリシーヌは頭まで毛布を被った。
「だっ、だだだだいじょうぶっ、ちょっと昔の夢を見ただけだからっ」
「そっか。……あのさ、グリシーヌ」
「な、に?」
「ごめん」
 それが自分を戦闘不能状態にさせてしまったことへの謝罪だということはすぐにわかった。上半身を起こす。
「気にしないで。これでも戦闘不能状態は何度か経験しているわ」
「……いや、うん、そう言うだろうと思ってたけど。でも俺としてはね、どーにも我慢ならんのさ。だから」
 身軽に跳んで、すたんと着地する。
「一週間。お休みもらえる? その間にグリシーヌも体休めてて。今よりもうちょっとだけ強くなってくるから。そしたらまた一緒に狩りに行こう」
「え」
「あぁ、そうそう。その前にさ、明後日空けといて。デートしようよ」
「へっ」
 変な声が出た。風散がからから笑う。
「嘘、冗談冗談。コートがさ、ちょっとボロボロになっちゃってたから知り合いの仕立て屋のところに持ってったんだ。明後日にはできるって話だから一緒に取りに行こう。一応その場で合わせてみたりした方がいいと思うし……あ、勝手にごめんね? 明日帰るときは……そうだな、寒いしこれでも羽織ってって」
 風散がいつも着ているマントを差し出した。 きれいに畳んである。言動はがちゃがちゃしているが、意外と几帳面だ。
「ちゃんと洗濯してるから臭くないよ!」
「……ありがとう」
「じゃあ……とりあえずもう遅いし、寝ますか!」
 そう言って隣のベッドに腰を下ろし、靴の留め具を外していく。グリシーヌは当惑した。
「えっ……おっ、同じ部屋っ……!?」
「何もしないよ。梅兄ちゃんじゃあるまいし」
 風散は苦笑いしながら再度立ち上がると、道服の帯を緩めて脱いだ。シンプルな黒いシャツとズボンは若干ゆったりとしているが、その下の細く締まった体のラインが見てとれる。
(って……何見とれてるの私!)
 顔を隠すように布団に埋もれる。と同時に、夕方のことがまた脳裏によみがえり、声が出そうなのを必死に堪えながら悶える。
「あ、眩しい? 明かり消そうか?」
「いえっ、お構いなくっ」


 昔のことを、思い出す。

 気を張って生きてきた自分が目標を失ったとき、また引き上げてくれた張本人が――道を照らしてくれた人が、目の前にいる。


「惚れちゃうのも無理のない話よね」
「え? 何?」
「いえっ、何でもないですっ 」


 ああ、お兄さま、ごめんなさい。
 ただでさえワガママ言って学院にいさせてもらっていたのに、更にウィザードになってしまって。

 しかも私は今、


「おやすみグリシーヌ、良い夢を」
「おやすみ……なさい……」


 年下の殿方に惹かれてしまっています――





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 グリ子の過去編ですな

 そしてアクの強さに定評のあるお兄さま・ロテュスの初登場回でもあります

 この頃はまさかロテュスがあんなことになるとは思いにもよらなかったわけで……





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中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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