the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第九話 それぞれの時間



「初めまして、梅丸・ティーニカです。よろしく、レディー」
「グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイです」
 三回目の全く同じ挨拶。しかし相手は全く同じではない。一番最初に挨拶をした風散曰く兄と姉が五人ずついるとのことだが、目の前の男――聞けばどうやら次男らしい――は、その風散とも先日会った長男とも似ていない。似ているところを探すとすれば、色彩ぐらいか。銀色の髪に鮮やかな紫の瞳には、何となく血の繋がりを感じなくもない。
「じゃ、さっそく行きますかね」
 しかし彼はどこか素っ気ない。風散の懐っこさに慣れてしまっているせいだろうかとも思ったが、千代木も初対面にしては人当たりがよかった。
「あの」
「何?」
「その……紹介していただけるギルドって……」
「『クリスタルキング』。ホールのランクがたまに変わるけど、まぁ人いっぱいいるし風散がいるとこよかずっと安定してるよ。わかんないことあったら誰かに訊けばいい……って、俺も入ってあんま時間経ってないから、何とも言えんけど」
「そう、ですか」



     ‐それぞれの時間‐



 ギルドの加入手続きをした後、
「あ、ちょうど昼だし飯でも食いに行かね? 弟が世話になってるからおごるわ」
 そう言うと梅丸はグリシーヌをギルドホールから連れ出した。ギルドホールのテレポーターに移動させてもらったのは、縁故地の一つであるオアシス都市・アリアンだった。
 アリアンは冒険家も商人も多く、昼夜問わず賑わっている。グリシーヌがやや後方できょろきょろしていると、梅丸は振り返った。
「あれ。もしかして、アリアン初めて来た?」
「いえ、その……何度かは。そんなに多くはないですけど」
「露店見て回る?」
「いいんですか?」
「どうせ俺暇だし、風散からもいろいろ面倒見てやれって言われてるしさ。付き合うよ」
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げたそのときだった。
「蟹秘密ありませんかー! ポタ持ち武道でーす!」
 遠くで叫んでいる、聞き慣れた声――思わず顔を上げ、その声の元を探す。
「気になる?」
 梅丸がにや、と笑う。
「声、掛けてくるんなら待ってるけど?」
「…………いえ」
 それまでふわっとしていたグリシーヌを取り囲む空気が、一気に引き締まった。
「行きましょう。露店もまた後日にします」
 思わぬ表情に、梅丸は一瞬目を見張る。
 弟がいつも話していた、穏やかであたたかくて可愛らしい、そしてどこか危なっかしい女ウィザードとは何かが違う。
(ふぅん……)
 お嬢さまとは聞いてたけど、なかなか骨のある女じゃないか――風散が惹かれるはずだと納得する。
「あんま無理なことはさせるなって言われてっけど……せっかくだし飯食ったらギルドダンジョンでも行くか。風散ばっかりに頼るのも癪だろ?」
「はい! お願いします!」
「とりあえず飯だな……何か食べたいの、ある? あ、そうだ……おーい湖底たーん、アリアン来ねえ? 飯食ってギルドダンジョン行こーぜ。は? 作れ? たまには他人の作ったもん食わせろよー。いいじゃんおごるからー!」
 友人らしい誰かに耳打ちをしているのを見て、グリシーヌは少し緊張を解いた。
 やっぱり彼は風散の兄だ。


「相手いないなら一緒に行こうか?」
 振り返るとソーティスがいた。風散は顔を顰める。
「レベルの縛りはどうしたんだよ」
「スフィア壊してからダンジョン入れば、まぁ何とか。で、どうする? 僕も一応ポタ持ってるけど?」
「行く!」
 二人はポータル・スフィアーに組み込まれている転送位置記憶装置で同時に飛んだ。瞬時に乾燥した賑々しい街の風景が薄暗く湿った大蟹の巣だらけの洞窟へと変わる。
「風散、移動速度石持ってる?」
「任せろ、常備品だ!」
「よし……じゃ、一回五分で終わらせようか。風散は移動時間かかるから右手の二体、僕は上と左手の三体……で、いいね?」
「おっけぃ!」


 酒場の近くの大衆食堂の片隅で、三人は冷水の入ったグラスを掲げた。
「新たな仲間に」
「クリスタルキングに」
「あ、え、えっと」
 グリシーヌがもたもたしていると、梅丸が笑った。
「グリちゃんの新たな門出に」
「え」
 いきなり親しげに呼ばれたので驚くと、向かいに座る武道家・湖底が苦笑いした。
「兄弟揃って人たらしだな」
「たらし、て。ひどい言い方するなぁ湖底たん、俺はうちのじーさまに『人に優しく、特に女には』って厳しく言われて育ってきただけだぜ?」
「そうやって言葉巧みに警戒心解いて、食い物で胃袋掴むんだろ。弟は弟で遊び盛りの子犬みたいに無邪気にじゃれついてくるし、振り払えない分タチが悪い」
 そういえば風散が、料理の上手い兄がいると言っていた。彼のことだったのか。
「さすが胃袋掴まれて子犬と遊んじゃう張本人の言葉は違いますねぇー」
 梅丸はグリシーヌの肩をぽんと叩く。
「まー安心しろって、俺はイヅミさん一筋だから。グリちゃんは風散の彼女だし?」
「ちっ、違います!」
「あらー赤くなっちゃってカワイーこと。……えっと、今日の日替わり何だっけ」
 テーブルに立て掛けてあったメニュー表を梅丸に手渡しつつ、湖底は興味深そうにグリシーヌを見た。
「いいのか? 貴族のお嬢さまがこんなところで飯なんて」
「あ、えと……私、嫡出子じゃなくて……実質お屋敷で暮らしていたのは二年ぐらいなんです。今まで生きてきた時間の半分はスマグの魔法学院でしたし。だから、一応作法は一通り叩き込まれてはいますが……どちらかというとこういう場所の方が」
「ふぅん」
 中性的な美しい顔に覗き込まれて、グリシーヌは戸惑った。
「な、何ですか?」
「庶民派。でもやっぱりお嬢さまだな」
「えっ」
「何だか守りたくなる顔だ」
「なっ」
「そりゃちょっと失礼だぞ湖底たん。あ、日替わりメニュー見る?」
 梅丸がグリシーヌにメニューを渡した。
「こういうおとなしそーな顔してるのに限ってやったら気が強えからな、あっちゅー間に俺らレベル抜かれて逆に守られちゃったりするんだぞ」
「あんたの方がよっぽど失礼なこと言ってる気がするがな」
「これでも敬意を込めて言ってんだよ」
 伏せられた目に鋭い光が宿っているのに、グリシーヌと湖底は気付かない。
「俺は強い女は大好物だぜ? よし決めた、甘だれおろしメンチカツとひじきごはんセットにしよ」


 一回目の秘密ダンジョン攻略が終了した。
「おつポタさんきゅー!」
「はいはい、おめおつ!」
 風散とソーティスはハイタッチを交わす。風散のガントレットとソーティスの布のグローブでは、快音は響かない。
「あれ、ソーティス装備変えた? いつもの速度手じゃない」
「うん。のびさんが大魔道師ブレスレットくれたから、速度杖にしたんだ」
 のびとはソーティスの姉・すずろの夫のウィザードのことである。
「いいなぁ、俺も装備変えたい……今の速度すげえし吸収も美味しいけど、攻撃力ないんだよなぁ」
「退魔手袋が出ないからってわけじゃないけど……インフィニティグローブでもいいんじゃない? 速度首はそのままで、道服を前のに戻してさ。腰と指をタティリスのセット品に変えて……あと、そのテキトーすぎる指!」
「ん」
 ソーティスは風散の両手を取った。
「ここ、どうにかしようよ。何で風散頭いいのにこういうとこテキトーなんだよ」
「んー。そういうとこは後でもいいかなって思って」
「僕よりお金持ってんのに、何をそんなに出し惜しみしてんの」
「だって、欲しいものあるんだもん」
「何」
「最高補正飛虎!」
「なるほど、そりゃ指もテキトーになるわな。……ま、とりあえず二回目行きますかね! いい加減お腹空いたし」
「おぅ!」


「じゃあ、湖底たんが釣って俺がダーティーフィーバーで仕留める。で、いいかな?」
 タティリス遺跡の入り口で役割分担の説明。自分は何も言われないので、グリシーヌは不安を感じた。
「あ、あの……梅丸さん、私は何を……」
「イディアちゃんここに置いてくから、アスヒ頼むわ。あと、長持ちしないのはしょうがないとして、支援を切らさないようにお願い。オーケー?」
「はいっ、頑張ります!」
 気合い充分のグリシーヌの頭を湖底が撫でる。
「そんなに気負わなくていい。俺はタティリス装備でヒットポイント吸収できるし、こいつも俺の倍近くレベルが高いからそう簡単に死にはしない」
「……何で頭撫でるんですか」
「いや、何となく」
「レベル低いかもしれないけど私の方が年上なんですよっ!」
 と、湖底は何を思ったか、自分の被っているつばの広い帽子をグリシーヌに被せた。
「よし」
「『よし』じゃなくて!」
「まぁまぁ、被っときなグリちゃん」
 いつの間にか案内役のイディアと話を終わらせた梅丸が、右手で短剣を弄ぶ。
「ここ日差し強いし、頭保護する意味でも有効だからね。……さぁて、行きましょっかぃ!」
 梅丸と湖底が走り出した。突然のスタートにグリシーヌは焦る。
「あっ、あっ、待って下さいいぃ!」
 慌ててチャージングしつつ、二人にファイヤーエンチャントとヘイストをかける。そうしている間にも、敵はどんどん倒されていく。ついていくのがやっとだ。
 それに気付いた梅丸が湖底を制した。
「湖底たん、ちょっとスピード落とそ」
「おう」
 息を切らして何とかついていきながら、アースヒールとヘイストで援護。梅丸も湖底も風散よりはレベルは低いが、それでもグリシーヌからみるととても強い。
 先を行く湖底の背中を見ながら、ふと、風散のことを思い出す。
 バランスよく拳と足とを使い分ける湖底とは違い、風散は独楽のようにくるくるよく回りながら蹴りを繰り出す戦闘スタイルだった。適度に筋肉はついているが体そのものが細いので、拳での打撃よりも攻撃力の高い蹴りを中心に使い、更に遠心力を利用してダメージを与えるのだと言っていた。
(でも、あれだけ跳び回るって、結構すごいわよね……)
「グリちゃんヘイ頼む!」
 梅丸の声で我に返る。
「はいっ!」
 ああ、また風散くんのこと考えちゃった――顔が熱くなっているのがわかる。
「かけたらちょっと下がって!」
「はいっ!」
 発掘者の亡霊たちが襲いかかってきたと思ったその瞬間、梅丸が無数の短剣を繰り出す。それまで目の前に迫ってきていた亡霊たちは跡形もなく消えた。
「ん~、ちょー気持ちイイ~☆」
 湖底が呆れる。
「無理するなよ、鼻血出てるぞ」
「あ、やべ、血圧上がった……ちょっとテンション上がるとすぐこれだ」
「薬ちゃんと飲んだのか?」
「あぁ、忘れてた」
「ほら、水」
「さんきゅー」
 小さな水入りのボトルを受け取り持病の薬を飲もうとする梅丸に、
「なぁ」
 湖底が小声で話し掛けた。
「あんた、さっきから何しようとしてる?」
「ん? 何が?」
「あの人の様子を窺ってるよな。たまに手に力が入ってる。しかも同時に、あんたらしからぬ妙な気を感じる」
「…………」
 梅丸は薬を服用すると、
「何言っちゃってんの、湖底たん。俺ちょーいつも通りだぜ?」
 ボトルを返しながら笑った。
「……だといいけど、な」
 離れていたグリシーヌが、気付いて心配そうに駆け寄ってきた。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「ん、ちょっと持病の薬飲み忘れてただけだから。さ、続き行こっかね!」


 二回目の秘密ダンジョン攻略が終わった。
「おっつー!」
「はーい、おめおつポタありー……あ、こんな時間か。ごはんギルドホールで食べよっか。今日弁当持ってきてるよね?」
 コートの内ポケットから時計を出して見るソーティスの袖を、風散が引く。
「ソーティス……ギルドダンジョン……」
「あ、それ無理。レベル上がっちゃう」
「ですよねー」
「天青と行ってきたら? 入る直前にエンヘイと霧かけてあげるからさ」
「おぉ、その手があったな! ソーティス頭いい!」
「博士号三つ持ってるお前に頭いいとか言われても厭味にしか聞こえないよ」
 また、同時に街へと帰還する。風散はすたすたと足早に先を行くソーティスに並んだ。
「なー、ソーティスー」
「ん」
「キスってしたことある?」
 ソーティスは立ち止まると、質問に答えず「突然何を言っているんだこいつは」という気持ちが全面に現れた顔を風散に向けた。
「は? 何? したの? グリシーヌ先輩と?」
「してないししたことないけど」
 うーん、と考える。
「……既に姉ちゃんたちの誰かに奪われてる気もしないでもない」
「ああ、うん、そうかもしれないね。特に千代木兄と茉莉と吉野と八重が怪しいよね」
 風散は兄・姉たちから溺愛されている。
 ふっ、と溜め息をついて、ソーティスは再びギルドホールへ向かって歩き始めた。
「何ですか風散くん、狙ってるんですか」
「えーだって何かさー、おいしそーなんだもんグリシーヌ。もちもちぷにぷにでクリーム大福みたい」
 その比喩は見た目か感触なのか、そしてそれはキスをしたいという理由になり得るのか――ソーティスは疑問を禁じ得ない。
「ああ見えて結構キっツいけどねあの人」
「うん、知ってる」
 思わぬ言葉にきょとんとすると、風散は笑う。
「見てりゃわかるよ。すっげぇ意地っ張りだしスイッチ入ると普通に黒いこと言うし。こないだなんてさ、チリ当たる確率上げるのにもうちょっと敏捷振ったらって言ったら『チリなんて数撃ちゃ当たるくらいでいいのよ』って言われたんだぜ? オっトコマエだなーって思ったわ」
 ソーティスは苦笑いするしかなかった。想像以上にグリシーヌは風散に対して「素」の姿を曝け出していたようだ。
「でもさ、何だかんだで一生懸命やってるし、可愛いって思っちゃうんだよな。……ソーティスは何でグリシーヌに惚れなかったの?」
 しばし思案して、ソーティスは真顔で返した。
「学業面ではお世話になったけど生活面ではお世話しっぱなしだったからだと思う」
「あー、じゃあしょうがないなー」
 テレポーターにギルドホールへ転送してもらう。二人の所属している『ベースボールベアー』は男ばかりのギルドだが、不思議とホール内は整然としている。
「案の定だけど、誰もいないな」
 風散は帽子とマントとバッグをテーブルの上に放り投げ、窓を開けた。
「でも誰か来てる形跡はあるよね、掃除されてるし。……あ、何飲む? お湯沸かしてくる」
 ソーティスが椅子に杖を立て掛けると、
「沸いてますよ」
 小さなキッチンから声が聞こえた。そして、
「ちょうど故郷からブルーフラワープラムの蜂蜜漬けが届いたんです。ホットでいかがですか?」
 青い髪の少女――ソーティスの従妹の霊術師・天青が顔を出す。彼女もこのギルドの一員だ。
「天ちゃーん!」
 風散が抱きつく。ふんわりとプラムの蜂蜜漬けの香りが漂う。
「ふぇー、いい匂いー……もちろん飲むに決まってるしー。……あれ、でも何でいるの?」
「そーちゃんが耳打ちして下さったから、キリのいいところで狩りを終わらせてきたんです。ギルドダンジョンに行くんでしょう?」
「ありがとー! ソーティス好きー!」
 今度はターゲットがソーティスに変わる。
「ちょ、風散、苦し……」
「あ、天ちゃん、ギルドダンジョンごはん食べてからでいい?」
 天青はにっこり、微笑んだ。
「私もまだなんです。ご一緒してよろしいですか?」



「あ、風散? ちょっと今日遅くなるわ。頼んであるから夕飯はスーんとこで食わしてもらえ。鍵? 持ってる持ってる。あいよー。……よし、と」
 耳打ちをした後大きな扉を開くと、長兄・千代木が仁王立ちで待ち構えていた。
「梅~ぇ。あんた何やってんのぉ~?」
「げ、ちよちゃん」
 ぎこちなく笑う梅丸の細い肩を、大きな手ががっしりと掴む。
「憂いはたとえ小さくとも取り除け――当主はそう言ったはずだぞ」
 濃い紫の瞳に射られ、梅丸はぞくりとした。兄の切り裂くような視線にはいつまで経っても慣れない。
「タイミングが掴めなかっただけだよ」
「そうかしら?」
 千代木はにや、と笑いながら梅丸を開放した。
「あんた、何だかんだ言って風散に一番甘いもんねぇ? 頼まれたからってよりによって同じギルドに入れちゃうとかかえってやりにくくしちゃってるし。バカなんだかどMなんだか」
「変に断ればかえって怪しまれるだろ。……あー、腹減った今日飯何?」
「鴨のトマト煮込み。ほら、早く行くわよみんなお待ちかねよ」
「うぇ、よかった昼飯チキンソテーとメンチカツと迷ったんだ」
 昔から家族が揃ってから食事を始める食堂に向かいながら、千代木が小さく問う。
「梅丸。あんた風散が瑠璃蜘蛛のこと気付いてると思ってるみたいだけど……その根拠は何?」
「逆に何でバレてないと思うんだ? まぁ、瑠璃蜘蛛の秘密主義は徹底されてるからそう考えるのも無理はないかもしらんけど」
 千代木は眉根を寄せた。
「だから百年以上続いているんじゃないの」
「そう。でもそれは『他人に対して』だ。たった一人の身内に対して一族みんなでやっていることを隠すだなんて、多分俺らが初めてだぜ。身内に対する隠し事が難しいことは、ちよちゃんだってよく知ってるだろ」
「…………」
「ちよちゃん――兄貴は、風散の頭のよさについて……違うな。風散の能力について考えたことあるか?」
「一族の中での突然変異」
「五歳で国立学士院に入るぐらいだからな、そう思うのが普通だよな。……でも」
 食堂の扉の前で、立ち止まる。
「観察力、洞察力、思考力――それだけじゃない。視力、聴力……身体能力もずば抜けて高い。そういう感覚が鋭いからこそ、学者になれたんだろうけど」
「何?」
 千代木は思わず弟を見た。
 梅丸は、扉を見つめたままだ。
「知ってるか? あいつが武道家になってから使ってるブーツ、左右それぞれ踵んとこに結構な重さの重りが入ってるんだ」
「重り? 何だってそんなもの」
「蹴りでの攻撃力を補うため、遠心力で速さを増すため、あと日々の鍛錬を兼ねて、だと。体が細くて軽いからそこいらの武道家に比べて攻撃力が劣るっての、ちゃんと自分でわかってるんだよな。だから拳撃じゃなくてパワーが三倍に相当する蹴りをメインに使う、とか何とか……学者のあいつらしい考え方さ」
「…………」
「去年まで学士院に通ってたインテリがそんなの履いてオーガの背丈より高く跳ぶとか、誰も想像できなかったよな。攻撃力云々はともかく、天賦の才としか言いようがねえよ」
 驚くべき事実に千代木は絶句した。ノリと勢いだけで冒険家への道に進んだ末弟が、まさか一年足らずでそこまで成長しているとは。
「――風散は俺らの願望に反して、瑠璃蜘蛛が最も欲する人材だ。そんなあいつが察してないとか、そっちの方が不思議だと思うけどな」
 泣きそうな、笑いそうな、複雑な顔で兄の顔を見る。
「断言できる。あいつは言わないだけで、瑠璃蜘蛛のことを知ってる。そして彼女を殺したら、その理由を知ったら、あいつは俺らを憎む――そこまでわかってて、それでもやれるか?」
 数秒の沈黙の後、千代木がバカねと呟く。
「あんた、当主に殺されるわよ」
「俺の第一の役目は『瑠璃蜘蛛を含めたあらゆるものから風散を守ること』。あいつをこんなことに関わらせるぐらいなら、別に構わねえよ。どうせ長くは生きられんと言われ続けて、今生きてるのも奇跡なぐらいだからな」
 千代木は梅丸の胸倉を掴んだ。
「お前、本当にバカなのか? お前が死んだら誰が風散を守る?」
「当主のことだ、俺の代わりなんて用意してるだろ。喜久あたりとか」
 兄の手を振り払い、梅丸はドアノブを掴んだ。
「ま、そうなったら俺もただでやられる気はねえさ。これでも昔よりゃダガー投げ相当上手くなってんだからな」
 千代木は苦々しく舌打ちした。





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 ここからティーニカ家編突入です

 不穏ふおーん!






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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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