the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第十話 Bloody Blue spider




 俺たちの家族は、人に言えないことをしている。



     ‐Bloody Blue spider‐



「梅兄ちゃん、知ってるか? うちの家名に似てる蜘蛛がいるんだぜ」
 次兄の梅丸に並んで歩きながら風散は言った。
 シュトラセラトの家からテレポーターを経由して古都の国立学士院前まで、毎日朝と夕方決まった時間に送り迎え。もうすぐ十二歳になるのだからと言っても、兄は聞かない。昨年から勤め始めたギルドの事務官という職も、定時で帰れるから選んだのだいう。
「ティエンケっていう名前でさ。ゴドム周辺にはいないけど、タトバ山の北方にごく少数生息してて……って、聞いてる?」
「あー、うん、はいはい虫虫」
 棒付き飴の棒を弄りながら梅丸はぼんやり返事をする。風散は膨れた。
「兄ちゃん反応うっすいな! そんなんだからフラれるんだぞ」
「聞き捨てならねえな。大体俺がフってるんだよ」
「えーやだサイテー! 何でそんなコロコロ女変えんのさ! 不潔!」
「うるせえ。つーかそう毎日毎日お前のマニアックな話なんて聞いてられんわ」
 言いながら、自分が口にしているものと同じ種類の、味が違う飴を風散に渡した。梅丸は毎日迎えに来る際に小さな菓子を持ってくる。そして差し出すのは必ず風散の好きなものだ。
「大体な、お前何で俺にばっかりそういう小難しい話題振ってくるんだよ。家帰ればしのちゃんがいるだろ」
 長姉のしのは風散までとはいかないが学問に優れ、大学で講師をしている。専攻が風散が好んで研究していることとジャンルが似ているので、兄・姉の中では最も話が弾む相手だ。
 しかし風散はまず真っ先に梅丸と話をした。忙しい両親の代わりに幼い頃から甲斐甲斐しく面倒を見てくれているため、兄弟というより親子のような感覚に近いのかもしれない。
「……ほんで。その蜘蛛がどうした」
「ん。でね、」
 反応は薄いようでも、ちゃんと話を聞いてくれているのを知っている。ゆえに風散は梅丸にべったりだった。そして美形というわけでもない兄が異性に事欠かないのにも納得していた。
「そのティエンケって蜘蛛、すっげえきれいだけどすっげえ強力な毒持ってるんだって。今日ルーウェンに写真見せてもらってさ。ほんとすっげえきれいなの! ラピスラズリみたいな鮮やかな群青色の繊毛が背中に生えてて!」
「ふーん」
「確かうちも、元はタトバ山周辺出身の一族だって前にばーちゃんが言ってたよな。何か関連してるのかなーとか、ティエンケのサンプル取りに行きたいなーとか、いろいろ思っちゃうわけよ。無理矢理研究と絡めて院長に現地調査行ってもいいか訊こうかな……あー、でも今やってる実験終わらせないと許してもらえないかも……九研と十三研占領しちゃってんだよな……うぅ、院長よりマユさんのが怖え……」
 と、梅丸が足を止めた。
「行くか? その実験とやらが終わったら」
「え」
「先月年度末決算で忙しくて休み取れなかったんだよ。ちょっとまとまった休み取ろうかと思っててさ。確かタトバ山て国境近くだべ? その辺温泉あったよな。俺今癒されたくてたまんねえんだよ」
 風散は目を瞬かせると、
「祥雲(サクモ)さんと行けばいいのに」
 兄が半年ほど前から交際している女性の名を出す。梅丸は遠い目で嘆息した。
「最近サク相手にしてくんねーもん。石像の元素集めとか言ってみんなで狩り行っちまうし」
「しょーがねえじゃん。祥雲さんギルドマスターなんだからさ」
「まぁなぁ。一応付き合ってんの伏せてるしな」
 祥雲は梅丸が事務官として働くギルドのマスターをしているランサーである。
「温泉かぁ」
 風散は飴の包み紙を取り、口に含む。
「梅兄ちゃん、そうやって言葉巧みに女口説くんだな。このタラシ」
 兄の手を取った。
「誰がタラシだ失礼な。って、何だどうしたいい歳してお手手繋いで」
「兄ちゃんの手好きなんだよ」
「はぁ?」
「何かよくわかんないけど!」
 にこーっ、と笑う。梅丸と同じく別段美形の類というわけではないが、風散は本当に輝くような笑顔を見せる。同年代の子どもと比べると背丈が低く言動もどこか幼いから尚更なのか、とにかく彼の純真さと愛嬌は強力な武器だった。
「つーかさぁ、兄弟二人で温泉とか傍から見たら異様じゃね?」
「お前がそういうの気にするとはな。でもどうせ採取用の道具とか容器とか何かいろいろ持ってって、アホみたいに荷物多くなるんだろ? 変な関係に見られるこたァないと思うけど」
「そっか! 梅兄ちゃん頭いいな!」
「博士号二つ持ってるお前に頭いいとか言われてもな」
「ふへへ」
 兄弟は、繋いだ手を大きく振った。
「梅兄ちゃん、今日夕飯何? 誰が作った?」
「今日は花ちゃんがちらし寿司こさえてたぞ」
「やった! 母ちゃんのちらし寿司!」
「お、ちょ、落ち着け関節外れる!」
 どこからどう見ても、とても仲の良い兄と弟。
 しかし彼らの関係性は、「特別」だった。


 それは、本人たちがお互いに伏せているものにより成り立っている。


 風散がゴドム国立学士院に入ることが決まったその夜、梅丸は祖父の書斎に呼ばれた。
「お前に役目を与える」
 祖父・樹は静かに切り出した。
「風散を監視しろ」
「……今までの子守りと何の違いが?」
「学士院に通うことが決まったということは、外の世界に出る――風散の世界が一気に広まるということだ」
「でもそれは……成長していけば仕方のないことだろ」
「学士院は科学の発展と技術開発の場として国家が深く関わっている。否が応にも多少の穢れに接することにはなるが、それは仕方がない。問題は――国家機密に近付く、即ち瑠璃蜘蛛の存在を知る可能性が非常に高くなったことだ」
「!!」
 始末屋ギルド・瑠璃蜘蛛は百年以上も前から密やかに存在が囁かれている。誰も実態を把握していないのにその名が知られているのは、それだけ関与が疑われている人死にが多いからだろう。国が絡んでいるという噂もある。
「噂は噂……とはいえ、事実瑠璃蜘蛛は国家から黙認された存在。追及されるどころか国のお偉いさんまで依頼してくるからな。どこから漏れるかわかったもんじゃない」
「でも俺は学士院の中にまで入っていけねえぞ。幼いからって理由付けてたまに様子見させてもらうんならともかく、毎日は無理だ」
「送り迎えをするだけでいい」
「え?」
 樹は窓の外を見る。
「風散は母親以上に共にいる時間が多いお前に一番懐いている。何でもお前に話してくるだろう。その内容を包み隠さず報告しろ。何か不都合があれば、こちらで処理を――最悪始末することもあり得るがな」
「始末って……依頼外でも殺しを?」
 振り返り、節くれ立った手を梅丸の肩に置く。
「風散のためだ」

 命令は絶対。
 そして、「弟のため」。

 一族の「救い」である存在を、決して闇に落としてはならない。

 その後梅丸は風散が学士院に通う約十一年間の間、欠かさず送迎をして話を聞いた。
 正直なところ、役目ではあるものの風散と一緒にいる時間は己の中にある暗い何かを忘れることができるというのが嬉しかった。風散に一番懐かれているというのが第一の理由ではあるが、体が弱く他の兄弟に比べて精神的にもデリケートな梅丸に対する配慮でもあるのだろう。

 しかし風散が十六歳を迎えようとした頃、突然「シーフになる」と言って学士院に休学届けを出し、家をも飛び出して――何故かシーフではなく武道家になってしまった。
 予測不能な弟の行動に戸惑いながらも、梅丸も弟に付いて行く形で職を辞しシーフになった。もちろん風散には気付かれないように、転職の時期は少しずらして。

 そうして今も、傍にいる。



 風散が自分の家族について何かおかしいと察したのは、十二歳になる少し前だった。
 元々、幼い頃から実家のあるシュトラセラトから遠く離れた古都ブルンネンシュティグの国立学士院に通っていたために家のことはあまりよく知らなかった。わかっているのは兄弟の一部を除きほぼ一家総員で商社を経営しているということと、各地に店舗と系列の宿屋があるということぐらいで、誰がどこで何をしているなどと全く気にしたことはなかった。それは興味がなかったのではなく、家族に絶対の信頼を置いていたからに他ならない。そうだと言われればそれを信じるのが当たり前だった。


 普段研究に関する論文やレポートは家には持ち込まないようにしていた風散だが、ある日どうにも筆が乗らず、家に持ち帰り深夜まで机に向かっていた。
「……腹、減ったな」
 台所に行けば何かあるはずだと階下に向かうと、居間から明かりが漏れているのが見えた。
 忙しい大人の多い家庭である。誰かしら起きていても不思議ではない。
 何となく、ドアと開けてみた。
「誰か起きてんの?」
「な」
「ふ、風散っ……!?」
 ソファに座った楓が、血まみれの右腕を千代木に手当てされていた。
「え……何それ、楓兄ちゃん、だいじょぶかっ!?」
「あ、ああ…・・・ちょっと喧嘩に巻き込まれちまってな。出血は多いけど骨も筋もやってない、ちょっと掠っただけだ」
 言いながら、後ろに何か隠したのを風散は見逃さなかった。
(今の……刃物と、何か薬品だったよな?)
 楓は元々シーフとして活動している。投擲用のナイフやそれに塗りつける毒薬を持っていたとしても、特に何の問題もない。隠す必要などないはずだ。
 ――自分に知られては具合の悪いことか。
「何時だと思ってんのよおチビ、明日も早いんじゃないの?」
 長兄の言葉にはっとする。
「明日は休みだよ。腹減ったんだけど、何かない?」
「こんな時間にあるわけないでしょ。梅丸が事務室にいるから可愛くお願いしてらっしゃい。ついでにおにーちゃんたちのもね」
「はーい」
 居間を出ると、風散は思案した。
(「掠っただけ」なら、ファーストエイドとかいうのでも何とかなるはずだよな……楓兄ちゃん、シーフとしてはかなり強いって梅兄ちゃん言ってたし……)
 ごくたまにではあるが、幼い頃からの趣味で武道家としてギルド戦争に参加している千代木が感心するほどの腕前と聞いている。

 それが負傷し、得物を隠す――不可解だ。

 そう思ったとき、既に風散の足は事務室ではなく屋敷の最深部へと向かっていた。

 紛失すると困る大事な書類が保管されているから近付かないように、と祖父母からきつく言われていた地下室。これまで全く気にも留めなかったのに、今はそこに絶対何かがあると思えてならない。
 音が響かないように、そっとドアノブを回す。
 施錠はされていなかった。
「無用心だな……」
 ドアを開けると、話し声が聞こえてきた。奥がぼんやりと光っている。
「まさか楓が負傷するとはな」
 祖父の声。風散は思わず息を殺した。
「幸い顔を見られていないとはいえ、利き腕をやられている。しばらく楓は使えんな」
「楓ほどじゃないけど、次の依頼なら茉莉でも充分こなせるわ。イルウ・ククは剣士としての実力と実績はあっても迂闊な行動が多いことで有名……特に女には弱く手痛い目に何度も遭っているとか」
 今度は長姉・しのの声だ。
「ふむ……じゃあ茉莉に任せるか」
「あの子なら『シルバー・バット』に半年所属していたから情報量も豊富。イルウ・ククの始末役には打って付けよ」
 姉の言葉に、背筋が冷たくなった。
 話の流れから察するに、「始末」とは即ち――
(殺すってことか……?)
 風散は静かにその場から離れた。
 一階の廊下を抜け、事務室の前まで来ると、一気に力が抜けて思わずドアに寄り掛かる。


 楓兄ちゃんが、人を殺してきた?
 茉莉姉ちゃんが、人を殺す?

 みんな、何してんの?


「誰かいるんか?」
 梅丸の声とドアノブの回る音で我に返った。咄嗟にドアから離れる。
「何だ風散か。まだ起きてたのかよ」
「……レポートまとまんなくて、持って帰ってきてたんだよ」
 何となく、兄の顔が見られない。


 もしかしたら、梅兄ちゃんも?


「どーした、何かあったか?」
 プラチナシルバーの髪を丁寧に整えるように、頭を撫でられる。
 いつも通りの、優しいあたたかい手。
 風散は梅丸に抱き付いた。
「おい」
「……腹減った」
「はぁ?」
「何か作って。ちよ兄ちゃんと楓兄ちゃんのも」
「あぁ? 飢えてんのが多いな全く……時間が時間だし、ミルク粥でいいよな?」
「うん」
「持ってってやるから部屋で待ってろ」
「うん。ありがと」


 それから数日間、風散は己の家について考察した。
 家人たちの隙を見ては、家の中を探った。
 証拠となるものを、自身の頭の中に収集した。
 記憶から、家人たちの行動を推測した。
 仮定とはいえその辻褄が合ったとき、風散は己の家族に対して――己の中に流れる血に対して、嫌悪感をおぼえた。


 しかし、解せない点が一つだけあった。


 何故か家人たちは、自分にだけそれを隠している。
 まるで、それを禁忌としているかのように。


 自分をそれに触れさせまいとするかのように。


 どうしてそんなふうに、頑なに隠そうとするのか?


 普段の態度からわかる――それはきっと、彼らが自分を大事にしてくれているからなのだ。


 家族が何をしていても、追求してはいけないと思った。
 自分がそれを知っているということを、悟られてはいけないと思った。


 このままでいよう。

 決して、壊してはいけない。


 自分は今まで通り、自由に振舞おう。



「梅丸からよくお前の話聞くけど、本当に仲がいいんだな」
「まぁねー。……あ、ここら辺?」
「ああ」
 風散は湖底を誘い、トワイライト滝の地下五階に来ていた。朝早くからクリスタルキングを訪れ、更に寝ている湖底を容赦なく叩き起こし、狩りをしているところを見せてほしいと連れ出したのである。
「パーティー、組まなくていいのか?」
「うん、見たいだけだから。俺とパーティー組んだら経験値不味くなっちゃうっしょ」
「見るって……何も楽しくないぞ」
「いいから早くー」
 風散は瓦礫の積み重なったところへ腰を下ろした。本当に見るだけで、狩りをする気は全くないらしい。湖底は一つ、溜め息をつくと、目の前にいるソードスパイダーに向かっていった。
「湖底くんは仰け反らないんだ?」
「ああ。白羽と流水だな」
「ふぅん……それが?」
「白羽取り。で、これが」
「流水撃?」
「そう」
「なるほど。……んじゃ、烈風撃は? 使える?」
「あんまり使わないけど、まぁ一応は」
「やって!」
「こうやって……」
 くるん、と手首を回すと、そこのみに小さな竜巻ができた。それを、
「こう」
 両掌で押し出すと、風が突き抜けた。食らったデスピンサーが引っくり返ってじたばたしている。
「おぉー、すげえな烈風撃!」
「まぁ、一匹だけ釣りたいときなんかには便利といえば便利だな。スキルレベルを上げれば強力な攻撃手段にもなるけど」
「極めたらメテオぐらい強くなるかな?」
「さぁ、そこは何とも……」
「よし。えーと、白羽取りはー……」
 風散は立ち上がった。同じ場所をぐるぐるを歩きながら、何やら呟いている。それを横目に狩りをしながら、湖底は美しく整った顔を顰めた。
「どうした?」
「よし、覚えた」
「は?」
「ちょっとあのサソリ借りるね」
 風散はデスピンサーに近付いていくと、まず拳で突いた。デスピンサーは怒りに尾を振りかざす。
「えーっと、こうして、」
 振り下ろされたデスピンサーの尾を、両手で挟むようにして受け止める。
「白羽取り。で、これをこうして、」
 そのまま全身を使うようにして尾を捻ると、デスピンサーの頭部が浮き上がった。そこへ、風散の右拳が炸裂する。
「流水撃。で、」
 ひゅ、と手首を回転させ、起こした風をデスピンサーに向かって放つ。
「烈風撃ー。こんな感じだよね?」
「…………」
 湖底は呆気に取られた。たった今一回ずつ見せただけの技を、風散が見事に使いこなしてしまったのだから、当然といえば当然か。
「お前……どうして……」
「え。だって湖底くん今やり方見せてくれたじゃん」
「いや、そうだけど……」
「あ、言ってなかったっけ」
 風散は再び、元いた瓦礫の上に座った。
「俺、武道家やってるけど師匠とかいねーの。人がやってるの見て、それを覚えて使ってんのね」
「他人の技をコピーしてるってことか……恐ろしいもの覚えの良さだな……」
 弟はとても頭が良いのだと梅丸から聞いてはいたが、まさかここまでとは。
「あ、そうだ。湖底くん、ちょっと飛び蹴りしてみて」
「え、あ、あぁ」
 言われるままにソードスパイダーに飛び蹴りを食らわせると、風散が後ろから声を掛けてきた。
「もう少し上に跳んでみるか、同じ高さに跳んでちょっと早めに蹴ってごらん」
「え?」
「ど真ん中に当てようとしてるでしょ? でも湖底くんはほっそりしてるように見えて結構しっかり筋肉ついてるから、意外と重たいんだよね。自分で考えてるより早く体が落下してるから、当てようとしてる的の中心よりビミョーに下に当たってるんだよ。だからほんのちょっとだけ上に跳ぶか早めに蹴り出すかして位置合わせると、ダメージ全然違ってくるよ」
「そ、そうか……」
 言われた通りにしてみると、確かに手応えが違った。以前よりも的確に攻撃が入った感触がある。
「……お前、いつもこんなことを考えながら攻撃をしているのか?」
「ん、まぁね。ほら、俺武道家としては非力だからさ。そのときの天候や体調を考慮し、武器や防具の威力と重さ、スキルの威力から体を壊さない範囲内で、自分の体で出せる最大限の攻撃力を計算する……ま、基本は物理学と人間工学の応用ってとこかな」
「よ、よくわからんが、そうか……」
 兄の様子を見に来るうちにちょくちょくクリスタルキングに顔を出すようになっていた風散が、どう見ても能天気な少年としか思えなかった湖底である。まさかここまで小難しいことを考えていようとは思わず、ただただ戸惑うばかりだ。
「……風散は、どうして武道家になったんだ?」
 梅丸の話と先程の言動から、どうして風散が武道家の道を進もうと考えたのかがよくわからなかった。そのまま国の学問機関の主席の座に収まっていてもよさそうなものだ。
 風散は、笑う。
「俺、モンスター絡みの研究が多くてさ、フィールドワーク行くとき必ず冒険家雇ってたんだよね。そうするとこれ以上近付くなだの近付いていいけど触るなだの、いろいろ制約が出るからさ。いっそのこと自分で何とかできるようになろっかなーって思って。最初はシーフになろうかと思ってたんだけど、武道家のがモンスターに傷付けないじゃん? だから院長に許可もらって休学届け出して、武道家になったんだ」
「完全には学者は辞めてないってことか」
「だって、楽しいもん。もっと知りたいことも試したいこともいっぱいあるからね。俺が好き勝手やってる方が、家族も喜ぶし。でも、最近ちょっと、別の目標ができたかな」
 想像以上の緻密な何かが詰まっている小さな体を持つ彼が更に何かをしようとしているということに、湖底は興味を持った。
「何がしたいんだ?」
「好きな人ができたんだ。その人をしっかり守って、サポートできるようになりたい」
「女? お前が?」
 驚くのも無理はない。まださほど付き合いが長くないとはいえ、年齢より幾分幼く見えるこの少年から色気のある話が出てこようとは思ってもみなかったのだから。
 風散は、にこにことご機嫌な笑顔になる。
「うん。最近クリキンに入ったっしょ? グリシーヌ」
「何だって?」
 先日梅丸が連れてきた女ウィザードは、確か自分よりも年上とか言っていなかったか。
「可愛いからって手ぇ出すなよ、俺が狙ってんだからな!」
 想像の斜め上というよりも、寧ろ飛び越した別の空間にいってしまっているようなこの少年の思考にはついて行けない――湖底は半分呆れ半分感心した溜め息を漏らした。





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 梅丸が風散の傍にいるのにはこんな理由がありました

 そして風散も何も知らないようでいて実は知っていました


 子どもって意外と見てるもんです





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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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