the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第一話 美しき未知に酔う




     ‐美しき未知に酔う‐



 古都ブルンネンシュティグの中央には、大きな噴水がある。その周囲の広場は格好の待ち合わせ場所であり、古都の住人や冒険者たちで賑わっている。

 新米ウィザード・グリシーヌも噴水前で待ち合わせをしている一人だった。


「……ちょっと早かったかしら」
 古びた金色の懐中時計を見る。幼い頃に亡くなった父の形見であるその時計の蓋には、双頭の蛇の紋章が刻まれている。
 ぱちん、と蓋を閉じたそのとき、遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。
「せんぱーい! グリシーヌせんぱーい!」
「あ」
 移動用飛行絨毯が爆走してくるのが見えた。
 それはすごい勢いで近付いてきたかたと思うと、グリシーヌの前で急停止した。赤みがかった茶色の長い髪の青年がひらりと飛び降りる。
「済みません、お待たせしましたっ!」
「私も今着いたばかりよ、大丈夫」
 グリシーヌはくすくす笑うと、再び懐中時計の蓋を開いて青年に見せる。
「ほら。約束の時間の六分前」
「あ、ほんとだ」
「相変わらず約束の時間は守るようにしてるのね、ソーティスくん」
 青年――ソーティス・スタインクルーガーは移動用飛行絨毯をポータル・スフィアーに収納しながら苦笑いした。
「姉がダラダラしてる分どうしてもね、こうなっちゃいますよ」
「ふふ。ほんとに仲良いわね貴方たち姉弟。すずろさんはお元気?」
「元気も元気。結婚したのにどこそこふらふら出歩いちゃって、全くフリーダムな姉です」
 ソーティスの言葉に、グリシーヌは顔色を一転させた。
「まぁ! ご結婚!? 貴方そんなこと手紙に書いてなかったじゃない! お、お祝いを……」
「あー、いいですいいです! お気持ちだけで!」
「貴方じゃなくてすずろさんによ!」
「わかってます、わかってますけどっ、先輩今あんまりお金持ってないでしょ! そんな無理しなくていいんですよっ、顔見せに来てくれるだけで姉も充分喜びますからっ!」
「うぐぅ」
 事実に言葉を返せず撃沈。 
 そう、グリシーヌは所持金が少なかった――何故なら、彼女はつい最近冒険者への道を歩み始めたばかりだからである。品のある深いグリーンのクラシカルなコートドレスに絹地のスカーフと、初心者の割に身なりが小奇麗なのは、彼女が元々貴族出身であるせいだ。
「にしても、どうしたんだろうな……」
 ソーティスは周囲を見回した。
「ちょっと耳してみるか……風散、風散! 聞こえる!? 何やってんだよ!」
 誰かを呼んでいるらしかった。グリシーヌは首を傾げる。
「ソーティスくん? まだ誰か来るの?」
「あ、ああ、ちょっと知り合いを呼んでて……え、何? 梅兄? 大丈夫だよもうその狩場なら! 早く、もう待ってるんだから! ……全く」
 珍しく声を荒らげていたソーティスに、彼女は若干気圧された。以前は怒るにしてももっと穏やかだった。
「あの……大丈夫?」
「あ、済みません。すぐ来ますんで」
「え、ええ……」
 直接顔を合わせなかった数年間の間に、彼は変わったらしい。思えば背も随分と伸びている。


 二分後。
「よっと」
 目の前に、黒い帽子に黒いマントの少年が現れた。宙に浮いたポータル・スフィアーをキャッチすると懐にしまい込む。
「悪い悪い、帰ろうと思った直後に蟹に絡まれちゃってさ。中々抜け出られんかった」
「風散……」
 ソーティスが、ゆらりと揺れた。
「何で今日一緒に来いって言ったのに梅兄と蟹狩ってんのかな? ん?」
 ぐにゃっ、と少年の両頬が引き伸ばされる。
「ふひゃああああっ! いはいっ、いはいよほーひすははひへぇっ!」
「ふっ、白羽も流水も会得してない武道家など恐るるに足らず!」
 赤くなった頬を擦りながら少年は不満そうにソーティスを睨む。
「今は分身極めてんだもん。見ろっ、この素晴らしい分身! もうすぐマスるんだぜ!」
 ずらっと同じ顔が背後に三体並ぶ。
「はいはいわかったよ、うざいからしまって」
「ソーティス最近ちょー冷たいな! ……で、」
 少年は帽子を取ると、くるくる回しながらグリシーヌの方を向く。
「この人? 学生時代の先輩って」
「うん」
 ふぅん、と少年は興味深そうにグリシーヌを覗き込んだ。
「女のウィザードかぁ。珍しいね。……背ェたっけ!」
 すかさずソーティスが風散の頭をぺしっと叩いた。
「言わないであげて! 僕より高いの気にしてるから!」
 更にに傷を抉っていることに彼は気付いていない。
 久々にコンプレックスを突かれてグリシーヌはちょっと泣きそうになったが、
「えー、でも梅兄ちゃんほどはないっしょ? いいじゃんカッコイイじゃん! 女の人ならスタイルよく見えるしさー。俺もこんくらいほしいな~」
 少年が無邪気にフォローした。きっと彼は悪気なく発言してしまうのだろう。
「すぐ伸びるよ。小父さんも兄ちゃんズもみんな背ぇ高いんだし」
「えーそうかなー」
 二人のやりとりにちょっと和んだところで、
「あ……あの、私、グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイと申します……」
 グリシーヌはコートの裾を持ち軽く頭を下げ、名乗った。
「デヴェレイ?」
 少年は怪訝な顔をする。
「ナクリエマの侯爵家じゃん。何でわざわざフリーのウィザードなんて苦労が目に見えてる職に」
「あ……えと……母校の……スマグ魔法学院の初等教員免許を取ったんですけど……今、空きがなくて……」
「あー。初等教員て競争率高いもんねー。スマ学も例外じゃないってことかー」
 と、少年の脇腹をソーティスが無言で突いた。少年は我に返ると、
「あ、んと、風散でっす、風散・ティーニカ」
 名乗りながら装着していたグローブをはずすと、
「よろしくレディー、以後お見知りおきを」
 グリシーヌの手を取って挨拶のキスをする。くだけた口調に反した流麗な動きだ。
「ティーニカ? って、あの、ティーニカ商会の?」
 グリシーヌは驚いた。貴族と同等の財力と権力を持つという噂の、フランデル大陸でもよく知られた豪商の名である。どうりで貴族の令嬢への挨拶も手馴れているわけだ。
「あ? あぁ、うん、まぁそうだけど」
 それにしても名家の出身の割に実にフランクである。
「つっても俺末子だしね~。家継ぐとかそういうのねーし?」
「末子!?」
 更に驚愕するグリシーヌ。思わず手を離す。
「確かティーニカの末子って……ゴドム王立学士院の最年少主席っ……」
「あれ、よく知ってんね。騒がれるの嫌だから厳重に伏せといてもらってたのに」
「あ、あの、でもっ……失礼ですけど、お、お幾つ……ですか……」
「十六。春で十七」
 眩暈がした。最年少主席学士と知ってはいたが、まさか自分より十も年下だったとは。
 同時に、興奮した。
「あああああのっ、先生の論文を全部拝読しました! 『陸生化したアクアスライムの生態からみる六大元素の分布と抽出の確率についての考察』とか、そもそも着眼点が面白いのにすごくわかりやすくて……」
「あはははは、またマニアックなの読んだねぇ。あと『先生』てやめて、そんなんじゃない」
 ソーティスも笑う。
「先輩も学者肌だからなぁ。魔法全般の成績はいいのに『デスピンサーの属性別魔法耐久力と毒の成分変化』とか変なレポートばっかり提出して先生困惑させまくってたし」
「え、何それ読みたい! 返却された?」
「あ、えと、はいっ」
「今度持ってきてよ。ねっ!」
「はいっ」
 信じられなかった。今目の前にいる後輩の幼馴染みという少年は、どこからどう見てもまだあどけなさの残る見習い武道家だ。しかしその実体は、大商家の子息であり自分が憧れの念を抱いていた学者という天才児だったのである。
 困惑と嬉しさと――グリシーヌは完全に混乱していた。
 テンパった先輩にソーティスが助け舟を出す。
「そうそう、本題本題。風散、グリシーヌ先輩はフリーのウィザードになってまだ日が浅いんだ。学院では優秀だったし一応ウィザードとしての能力は高い方だけど、貴族のお嬢さまでもあるから初っ端からあんまり危険な目に合わせられないじゃん? だから慣れるまで護衛というか、当分の間一緒に行動してほしいんだけど……さっき言った通り、こんな感じの人だから気が合うと思うし」
 んー、と風散が眉根を寄せる。
「めんどいなー」
「そう言わないで。どうせ天青とペアハンかかけら集めか秘密ダンジョンしか行かないだろ」
「そんなこと言ったらソーティスだってギルド戦しか出てねーじゃんかよー」
「僕は今レベル制限中だからむやみに狩ったりできないの! 天青もこれからしばらくレベルに縛りができるし姉さんは火力ないし梅兄は頼りにならないし、頼めるの風散しかいないんだよ」
「…………すずろ姉ちゃんの作ったチョコバナナマフィンが食べたい」
「わかった、頼んで量産してもらうから!」
 風散は、にっこり、微笑む。
「それよか早く退魔手袋とってきて」
 う、とソーティスが詰まる。
「ど、努力します……」
「よっし。じゃ、」
 グローブを着け直し、帽子の紐を首に引っ掛けると、ポータル・スフィアーを取り出して移動用飛行絨毯を召喚した――かと思うと。
「行こっかぁ!」
「ひぁっ」
 グリシーヌを軽々と抱き上げると、絨毯に飛び乗った。ソーティスが呆れ返る。
「風散、あんまり荒っぽいことしないであげて……」
「え? 二人で連れ立って行くより一緒に乗ってった方が早いっしょ? 迷子になったら困るじゃん」
「はぐれたら耳打ちすりゃいい話でしょーが」
「あー。……まぁ、いいじゃん!」
 からから笑う風散はグリシーヌを絨毯の上にそっと下ろして前方に座ると、今度はグリシーヌの両手を自身の腰に回した。
「しっかり掴まってて。俺結構とばすから」
「え、あ、はいっ」
「んー、どこで狩ったらいいかなぁー。あ、パーティー組めばいいのか……このレベルだとハノブの南の方の望楼とか、人あんま来なくていいかな」
「はいっ、お任せしますっ」
 未だテンパったままのグリシーヌに、ソーティスが笑いを堪えながら袋を渡した。
「大丈夫ですよ先輩、風散は僕が一番信頼してる武道家ですから。これ、ポーション……赤と青のラージを五セットずつと改良フルヒと改良フルチャと、必要ないと思うけど一応復活系一セットずつ。返さなくていいですから。あと、奥の方に姉が作ったサンドイッチと、水筒に紅茶入ってます。お腹空いたら二人で食べて下さい」
「あ、ありがとう……」
「準備おっけー!?」
 風散の大きな問いにびくっとして、腕を風散の腰に回し直す。
「はいっ! お願いしますっ!」
「じゃーソーティス、ちょっと行ってくらぁ」
「くれぐれも無理させないように。僕と同じ知識職で今レベル低くてしかも女性なんだからね」
「だーいじょーぶだって!」
 ぐん、と絨毯が急発進した。
「ひぁあああっ!」
 思わず風散にしがみつく。ふくくくく、と笑う声が聞こえた。
「可愛いなー」
「ひぇ……」


 ――え、何? この子今何て言ったの?


「あ、あの、せんせ」
「先生って言っちゃダメ。俺もう学士じゃないし」
「えと……風散、くん……」
「グリシーヌ。グリシーヌかぁ」
 確認するように復唱すると、風散は振り返った。
「俺とおんなじだ。藤の花の名前」
「……!!」
 その笑顔を見て、グリシーヌは顔が熱くなるのを感じた。


 後に彼らは年齢差と身分差を物ともせず結婚することになるのだが、それはまた別のお話――





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 初めて書いたRS二次創作の長編です 旧ブログでちまちまと進めて1年以上連載してました

 登場するのは自分がゲームで作って操作しているキャラと、ゲーム上で付き合いのある人(今は引退や半引退状態の人ばかりですが……サビシイのぅ)の操作しているキャラ、あとはクエスト関連NPC、完全創作キャラになります

 RSの世界観とゲームシステムをできるだけ忠実に出せたらなぁ、というか、ゲームをプレイする感覚で話を読めたらと書いたので、回復系やセットアイテム等は勿論、中の人が使っている課金アイテム(ポータル・スフィアーですね)も出したりしています

 そのへん「あーw」と思いながら読んで楽しんでいただければと思います





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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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