the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第十一話 青い蜘蛛の赤い糸




 風散とグリシーヌが会わなくなって六日目の朝、クリスタルキングのギルドホールの入り口で梅丸がグリシーヌを待ち構えていた。
「や、おはよグリちゃん」
「梅丸さん……」
 ただでさえ持病持ちで色白で細い彼であるのに、ところどころ傷を負っている。そういえば風散が耳打ちで、ここ数日兄が実家に行って帰ってこないのだと言っていたことを思い出す。ギルドにも顔を出していないようだった。
「どうしたんですかその怪我!」
「ま、いろいろあってな。……よし、早いうちにギルドダンジョン行こうか」
「そんな体で行くなんて無茶です! マスターに回復して」
「いいから、ちょっとついて来て。二人だけで話したいことがある」
 梅丸は小声で言うと、グリシーヌの腕を掴み、強引にギルドホールの奥へ進んだ。
 貧血のせいか、腕を掴む手ががくがくと震えている。



     ‐青い蜘蛛の赤い糸‐



 ダンジョンの中に入ると、イディアに残るように言い残して梅丸はどんどん先へと進んだ。グリシーヌは必死に追い掛ける。
「うっ、梅丸さんっ、無理しないで下さいっ!」
 返事がない。無我夢中でチャージポーションを飲みながらダーティーフィーバーを連発し、モンスターを沈めていく。
 まるで何かから逃げているようだった。
 ダンジョンの中ほどまで来ると、
「ここらへんでいいか」
 ようやく梅丸の足が止まった。ゆっくりと振り向くその顔は、血色が悪い。
「グリちゃん、率直に言うわ。俺……きみのこと、殺すように言われてる」
「えっ?」
「でも、無理だ……できない」
 息も絶え絶えに、その場に腰を落とす。グリシーヌは傍に駆け寄った。
「どういうこと……なんですか? どうして貴方が、私のことを」
「風散を、守るため」
「風散くんを?」
「俺と風散の家――ティーニカ家は、表向きは商家だけど……裏で、殺し屋やってるんだ。もう百年以上も、ずっと。瑠璃蜘蛛って、名前ぐらいは知ってるだろ? 古都のはずれにある聖アデル教会の告解室で依頼して金を積むと誰でも殺してくれるって噂の始末屋ギルド……あれ、うちなんだよ」
 突然の告白に、グリシーヌは言葉を失った。
 梅丸は言葉を止めない。
「昔、数十年前……俺たちの祖父が一人の貴族を殺した。名前はソール・アルベリック・デヴェレイ――グリちゃんの曽祖父にあたる人だ」
「まっ、待って下さいっ、それと風散くんと私に何の関係がっ……」
「わかんない? 俺ら、きみんちの仇だぜ?」
「仇……風散くんが、私の……」
 頭の中が真っ白になった。

 まだ出会って一月と経っていない、あの明るくて無邪気な少年が。
 ずっと憧れていて、自分よりずっと年下だと知り衝撃を受けて、それでもどうしても惹かれてやまないあのひとが。

「あ、あの……私……」
「グリちゃん。聞いて。まだ終わってない。……ここからが、重要」
「え……あ……」
「グリちゃん」
「えと、あの……」
「聞けっ、グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイ!」
 これまでやわらかい物腰で接してきた梅丸が突然声を張り上げたことで、グリシーヌの思考が再度動き始めた。
「はいっ!」
 息が荒いまま、梅丸は続けた。
「風散は、うちの方針で一切このことを知らない。もしかしたら知ってるかもしれないけど、俺らは教えていない……だから、風散は……風散だけは、仇だって思わないでほしい。あいつは瑠璃蜘蛛とは関係ない、あいつを嫌わないでやってほしい」

 多分、彼の言っていることは全て真実なのだとグリシーヌは思った。

 そして彼が言わんとしていることはこうだ――自分たちの家は暗殺稼業をしていて、過去にグリシーヌの先祖を殺した言わば仇。自分たちを憎むのは一向に構わないが、風散だけは何も知らないから責めないでほしい。もし風散に恨みの刃を向けることがあれば、グリシーヌの命をも奪わなければならない、それは風散のためにはしたくない――と。

「…………何を言うかと思えば」
 グリシーヌは溜め息をつくと、チャージングをして梅丸にアースヒールをかけた。
「そんな話をいきなりされて、急に理解できるとでも思っているんですか? 順を追って、もう少しゆっくり、詳しく説明して下さい。朝っぱらからこんな人気のないところへ連れ出されて、いい迷惑です」
 冷静な切り替えしをされ、今度は梅丸が戸惑う番だった。紫色の瞳を丸くして黙り込む。
 グリシーヌはだんだんとヒートアップする。
「私、十一歳までアウグスタの修道院にいたんですよ? 父との初対面すら父の葬儀前日だったというのに、生まれたとき既にこの世からいなくなってた人のためにごちゃごちゃ考えられるわけがないじゃないですか!」

 話が全く理解できないわけではない。

 ただ、何だか悔しくてたまらなかった。

 風散とそんな複雑な因縁にありながら己は全くそのことを知らず、しかもいつの間にか勝手にぐちゃぐちゃにかき回されていただなんて――

 何より、風散に対する気持ちがこの男に負けているように思えた。実の兄弟なのだし、普段から仲がいいということはよく聞いていたからそれは当たり前なのだろうが、つい嫉妬に似た感情を持ってしまった。

「仇がどうとかなんて知りません! 確かに私は今は『グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイ』ですが意識下ではまだ『グレース・フラムスティード』のままなんですっ、どうせ侯爵の妹だなんて名ばかりなんですっ!」
 言い切ると、
「…………あ、あぁ、えっと……ごめん」
 気圧されて何となく謝ってしまう梅丸の傍らに、そのままぺたんと座り込む。
「……そりゃあ、風散くんが瑠璃蜘蛛の一族だってのは……正直なところショックではありますけど……でも、関与していないんじゃ、何とも言い難いですし……私は……風散くんを嫌うなんて、そんなこと……」

 嫌いになるだなんて、憎むだなんて。
 ありえない。


 あのひとのことが、好きなのに。


 数秒の沈黙の後、ふと風散の顔を思い出し、
「う」
 顔が真っ赤に染まる。そんなグリシーヌの様子を見て、梅丸は益々驚く。
「え…………まさか、グリちゃん、あいつのこと」
「いや、あの……あの……ごめんなさいっ、違うんですいや違わないんですけどあのっ……」
 具体的な言葉ではなかったがグリシーヌが風散に好意を持っていると確信した梅丸は、
「いいじゃん。悪くねえ」
 笑った。
「まぁ、言われてみりゃ確かにそうだ。一応血の繋がりがあるって程度の見ず知らずのじーさんが生まれる前に殺されてたからって、それで今実は仇でしたとか言われても困っちゃうよな。きみ、ほんとに見かけによらず潔いな」
「え?」
「俺の第一の役目は風散を守ること。あいつを泣かせるような真似はしちゃいけない――つまり精神的害悪も寄せ付けちゃいけない。……よし」
 少し咳をしながら立ち上がると、チャージポーションを一つ、一気に飲んで瓶を投げ捨てた。
「グリちゃんが死んじゃったらあいつ泣くからな。だから――風散が大事にしてるきみのことも俺が守る。ま、こんなにズタボロな状態じゃ正直どこまでできるかはわかんねえけど……いや、そうか、そうしよう」
 再び駆け出した梅丸の後を、グリシーヌが慌てて追う。
「な、何ですか?」
「後でさ、ちゃんと治して回復してもらうから、昼飯食ったらまた付き合ってくれる? 先手必勝だ、殴り込み行こうぜ」
 チャージポーションを片手に器用にダーティーフィーバーを繰り出しながら言う。
「え、あ、はい……えっ!?」

 殴り込み?

 一体梅丸は何をどうするつもりなのだろう。グリシーヌは一抹の不安を覚える。
 と――それよりも、彼が先程言い放ったある言葉が引っ掛かった。

『風散が大事にしてるきみのことも俺が守る』

「えっ、えぁっ!!?」
 突然発せられた奇声に梅丸は足を止めて振り返る。
「な、何どうしたのグリちゃん」
「……………………あっ、あのっ……風散くんが、大事にっ……てっ……」
 再度赤面するグリシーヌに、梅丸がにや、と笑った。
「こないだ風散言ってたよ、『恋しちゃったかも』って」
「えっ…………えええええぇぇぇぇぇぇっっ!!?」



「あんた本当にバカね?」
 前もって梅丸から耳打ちを受けていた千代木が、門の前で待っていた。普段の大商家の若旦那の装いではなく、武道家やシーフがよく身に着けている赤いマフラーに、シーフ・武道家なら一度は着てみたい逸品と名高い道士服を着用している。
「梅丸。あんたは兄弟の中で一番冷静だと思っていたわ。それなのにわざわざ標的に全部話して連れ帰るなんて……殺して下さいって差し出すようなものよ?」
「でもその格好してるってことは、味方してくれるんだろ? フル装備でやる気満々じゃんか」
 千代木は呆れ返った溜め息をつくと、梅丸の後ろに控えるグリシーヌを見て今度は感心する。
「聞いてはいたけど……ほんとにウィザードなのね」
 初対面はドレス姿だったが、今はふわっと裾の広がった女物の――しかしウィザードの装備としては質の高いロングコートに、杖を持っている。
「え、あ、はいっ」
「エンヘイアスヒは?」
「い、一応……ヘイストとアースヒールはマスターしてないですけど……」
「攻撃は?」
「チリングタッチと、少しだけファイヤーボルトを使っています」
「他には?」
「ミスティックフォッグを」
「ふぅん」
 千代木は満足そうに笑う。
「ま、冒険初心者の割にはそこまで覚えてるのは上出来だわね。スマ学のポスドクって聞いてたからただの頭でっかちかと思ってたけど、安心したわ」
 グリシーヌはむっとした。
「これでも基礎魔法の実技は学年トップだったんですよ」
「ふふ、顔に似合わずなかなか気丈じゃないの。いいわ貴女、アタシそういうの好きよ。……さぁ、て」
 門の鉄格子を押す。ぎぃ、と重々しく軋みながら、ゆっくり開く。
「うちの当主はもちろん、みんなプロだから強いわよ~。気ぃ抜くとほんとに死ぬから、覚悟なさいね☆」
「あの、千代木さん」
 前を行く千代木に声をかける。
「何?」
「どうしてこちら側についてくれるんですか?」
 ティーニカ家に着くまでに梅丸から掟が厳しいということを聞かされている。全身の怪我も当主の命に背いたせいであり、命からがら抜け出してきてギルドホール駐在の治療師に頼んで治癒してもらったというから、裏切れば相応の罰を受けることになるだろうことは簡単に予想がつく。しかも千代木は跡取りである。
 しかし振り向いた千代木はにこりと笑う。目元が少し風散に似ている。
「可愛い弟が泣くのは見たくないからさ。そう歳が変わらない息子がいる分余計にね」
 急に話し方が変わったが、何故だか違和感を感じなかった。
「息子さん……ですか」
「風散より少し年下だけど一応跡取りの長男だし、うちのことは全部話してある。考えてみれば、風散にだけ隠そうだなんておかしな話さ。仕事に一切関わらせない、それだけでよかった。だからこんな厄介なことになった」
 兄であり父親であり家を継ぐ者としての表情に、グリシーヌはふと異母兄を思い出す。そういえば同じくらいの年頃だ。
「それに」
 千代木はグリシーヌの頭をぽん、と触った。
「個人的に、ちょっとね。……っと」
 玄関の前まで来ると立ち止まり、手で下がるように示す。
「グリちゃん、これから先はアタシと梅が並んで歩くより前と左右に出ないように、そして離れすぎない程度でついてきてね。あ、後退もしちゃダメよ」
「え」
 玄関のドアを入念にチェックしながら今度は梅丸が言う。
「うち、一部を除いて罠だらけなんだよ。常時修行の一環とか言ってさ……あ、ここだ」
 腰の後ろのポーチから工具を取り出し、ディザームトラップで罠を解除。グリシーヌは相槌とも感嘆ともとれる声を出した。
「は、はぁ……」
「ちくしょう」
 工具をしまいながら、梅丸がぼやく。
「シーフに戻るなんて考えてなかったのにな……」
「『戻る』?」
 用心しながら玄関のドアをゆっくり、開ける。千代木が中を窺いながら苦笑した。
「この子が病気なのは知ってるのよね。心臓の病なの。一応昔はうちの本業に関わってたんだけど、十年くらい前にすごい発作を起こして以来ずっと実戦からは身を引いて、商売の方の事務とか営業とか子守りとかしてたの。一時期弱小ギルドの事務官もやってたけどね」
「……風散くんのために、またシーフになったんですか?」
「活動時間が不定期だからな。ずっと見張ってるわけじゃねえけど……あ、ちよちゃんストップ。右上と左上」
「あいよ」
 顔色一つ変えずに小刀を投げる。ばちんと何かが切れる音がして、上から金属の矢のようなものが大量に落下してきた。梅丸があーあ、 と引きつりながら笑う。
「完全にトラップ破壊したな……知らねえぞ、後でしのちゃんと八重がブチ切れても」
「ふん、いつだって最強なのは一番上のお兄ちゃんなのよ。罠シフが二人でかかってきたって痛くも痒くもないわ」
 会話を聞いて、この家の兄弟たちはお互いに信頼と戦意とを併せ持っているのだとグリシーヌは思った。だからこそ、ある意味最も恐れられている陰のギルドを営む一族として成り立っているのだろう。
 同時に、ただ冷酷な殺し屋たちなのではないということも悟った。よくはわからないが、そう感じられた。

 顔も知らない曽祖父を殺されたからとどう反応していいのか今でも考えあぐねている、というだけではない――末子のために自分を消そうとしていたはずのこの家の者たちを、何故か憎む気にはなれないでいた。



 その頃風散はというと、ギルドダンジョンから戻り、ホールのテーブルで天青とおやつタイムを堪能していた。
「何だかすごく強くなりましたね、ふーちゃん」
「いやぁ、まだまだっすよ天ちゃん。あー、せめて今日中にレベル上げときたいなー」
「名も無い崩れた塔のクエストなんかはいかがですか? 今のふーちゃんのレベルなら結構上の方まで行けると思いますけど」
「うん、ありがと、じゃあ後で行ってみる! 天ちゃんこのチョコおいしい何入ってんの?」
「こっちのはバラのジャムですね。その隣が月見苺のシェリー漬けと、こっちがジャンドゥーヤのホワイトチョコがけ」
「えー何これおいしいどこで売ってんのー?」
「ふーちゃんのおうちのお店ですけど……」
「え、あれ? 俺知らないぞ、いつの間にか新たに入荷したのかな? 塔のクエスト終わったら実家行ってみよ」





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 チームアラサー、ティーニカ家へ突入

 そして風散も向かうことに


 実はちょこちょこ手直ししてます

 以前はこの回ではちよちゃんは飛虎(多分立派なOP付き)を着ていましたが、道士服に変更しまんた

 まぁ飛虎でも問題はないんですがね、何となく何となく





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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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