the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第十二話 Family




「チョっコレート~♪ チョっコレート~♪」
 風散・ティーニカはご機嫌だった。実家の経営する店に新しい菓子が入荷されたと知り、家族価格でまとめ買いをしようと企んでいるのである。
「グリシーヌ、チョコ好きって言ってたもんなー、あげたら喜ぶよなー。あれうまかったなー特にジャンドゥーヤ」
 名も無い崩れた塔でクエストをいくつかこなしてレベルが上がったのも、彼の機嫌がいいことの原因だ。ここしばらくキングクラブの巣にある秘密ダンジョンにばかり通い詰めていたから、蟹型モンスター以外の相手をするのも新鮮だった。
「あ、そだ。そろそろ鉄爪の手入れもしないとな。楓兄ちゃんに油分けてもらお」

 彼はまだ、実家で何が起きているのか知らない。



     ‐Family‐



「グリちゃん、アスヒお願い!」
「はいっ!」
「ヘイ切れてる!」
「はいっ!」
 梅丸と千代木が連携し、ものすごいスピードで屋敷のそこかしこに仕掛けられているトラップを解除――いや、破壊していく。まず梅丸がダガーを投げてトラップの目印をつけ、千代木が壊す。時限式のものもあるからスピード勝負だとか言っていた。
「くっそ……多いな」
「アタシらが出てから増やしたのね。しのと八重がはしゃいでる姿が目に浮かぶわぁ……ムカつくあいつら後でシメる」
 超低音で放たれた最後の一言にグリシーヌと梅丸はぞくっとした。千代木は度々ものすごい殺気を放つ。恐らく苛立っているのだろう。
「あの、何でこんな……からくり屋敷みたいなことに……」
 少しでも動けば何かが作動するといっても過言ではない状態だった。三人の通った後は、トラップの残骸が瓦礫となって途切れることなく連なっている。
 兄に止まるように声をかけると、梅丸はフルチャージポーションの栓を開けた。
「試されてる――のかな。もしくは物資の消耗を狙ってるか」
「多分両方ね」
 千代木が溜め息をつく。
「梅、体調は」
「余裕。今日結構調子いい」
「ほんとに!? ほんとに大丈夫なの!? ちゃんと薬飲んだのポットの在庫数は確保されてるの!!?」
「あぁもううるせえなぁいい加減弟離れしろ!」
「あんたはフーだけを見てればいいんでしょうけどアタシにとっちゃあんたも弟なのよおおおぉぉぉぉ!!!!」
 先程から千代木は梅丸の心配ばかりしている。梅丸は体が弱いというから無理はないのかもしれないが。
「あとどのくらいで当主のとこまで行けるかな」
「さぁねぇ。案外罠だけじゃなくて待ち伏せとかされてるんじゃないのォ?」
 と。
「千代兄さん、梅兄さん」
 温度の低そうな声がした。そう遠くはない。
 三人揃って見上げると、銀髪の青年が天井から逆さ吊りの状態で現れた。見れば天井の板を抜いたところに足を引っ掛けている。
「喜久(キク)」
 兄弟が声を揃えてその名を言うと、喜久はすたんと真下へ着地した。
「このまま廊下抜けて階段上がって、なんて普通に行ったらキリがない。近道こっち」
「何で、お前」
「父さんと母さんがおいでって。しの姉さんと八重、やりすぎって怒られてた」
 千代木は正面の表情の動きに乏しい弟を見据える。
「罠」
「じゃないよ。私今手ぶら。ほら」
 ボディチェックをするようにと両腕を水平に上げるが、千代木が顔を顰める。
「必要ないわ。飛虎を着てない時点で戦意がないのはわかるもの。あんた仕事のときしかシフ武の格好しないでしょ」
「うん。まぁね。……千代兄さんは紳士だな」
 ぼそりと言うと、今度はグリシーヌの方を見る。すらりとした肢体に合った涼やかな美貌だ。
「……貴女が、風散の恋人」
「こっ……ちっ、違いますっ!」
 先程梅丸から風散も自分のことを想っているらしいと聞かされてから、風散の名前が出る度に妙に意識してしまう。
「顔赤い」
「いやっ、だからそういうんじゃっ」
「可愛い人だな」
 羨ましい、という喜久の呟きに、千代木は苦笑する。
「あんたも充分可愛いんだから笑ってスカート穿いときゃいいのよ」
「えっ」
 グリシーヌは思わず喜久を見る。
「あの……失礼ながら」
「うん」
 喜久はぺこりと頭を下げた。
「遅ればせながら、初めまして。風散の姉の喜久です。弟がいつもお世話になっています」



 通された部屋は応接間。クリスタルガラスの大きなテーブルに、シンプルかつモダンな黒い革張りのソファが並んでいる。
「まずは数々のご無礼をお許し下さい、レディー」
 兄弟たちと同じ白銀の髪に鮮やかな紫の瞳の中年男性が、グリシーヌの手を取り口付けた。
「お初にお目にかかります、風散たちの父で甲(キノエ)と申します。これは妻の花子」
「グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイです」
「……ウェスパシア・フラムスティードの娘御か。よく似ておられる」
 意外な人物の口から意外な名が出たことに、グリシーヌは驚く。
「叔母……母をご存知なのですか?」
「昔同じギルドに。ウェスパシアは名うてのアーチャー。彼女のウォーターフォールと親友オルタンシア・バシュロのフラワーシャワーとのコンビネーションはギルド戦争時の主戦力でありました」
「オルタンシア……奥さまがプリンセス……?」
 初耳だった。しかし同時に合点がいった。継母がウェスパシアや自分を憎んでいたのは、親しいと思っていた者に裏切られたからなのだろう。
「私とフルドのペアパーティーも負けてはいませんでしたが」
「フルド……あぁ、ソーティスくんのお父さまですね」
 そういえば後輩の父もスマグではなかなかの有名人だ。成績優秀ながらにちゃらんぽらんの問題児だったと聞いている。
「これも何かの縁、なんでしょうね。さ、座って下さいな。お茶とお菓子をご用意しましたから」
 穏やかな笑顔の花子がテーブルにティーセットを並べる。風散がいつも水筒に入れてくる紅茶と同じ香りがした。
「あの……」
 ソファに腰を下ろしたグリシーヌが問いかけると、甲がにっこり笑う。親子だけあって風散に似ている。
「いいから食べなって! あ、それ花ちゃん特製のカヌレ。おいしいよ!」
 つい先程まで紳士的な態度だったのが、突然フレンドリーになった。千代木と梅丸がげんなりする。喜久も心なしか呆れた表情だ。
「きのちゃん、猫被りやめるの早すぎ」
「ぁんだよ梅丸、俺こーゆー堅苦しーの苦手って知ってんだろぉ? それに侯爵令嬢ったってウェスパシアの娘じゃそんな遠慮するこっちゃねぇって。なぁ、グリシーヌちゃん?」
「え、あ、はい」
 勢いで答えてしまう。甲とウェスパシアの関係性が一体どんなものだったのかはわからないが、遠慮するような間柄ではないとなるとそれなりに仲がよかったのだと考えてもいいのだろうか。
「ん、いーね。可愛い上に理解力ある。おじさんきみみたいな子大好きだよ! お嫁さんにほしいね!」
 梅丸が益々呆れ返る。
「あんた妻子持ちのくせに」
「え、だから」
 立ったままずっ、と紅茶を啜り、甲は事も無げに言った。
「俺の女房は花ちゃんだけだっつーの。風散の嫁さんに来たらいんじゃね? って話。お前らいい歳してるのが揃ってんのにさっさと結婚しねーから、未だに孫が六連(ムツラ)一人とか俺ちょーサビシイんですけど。俺と花ちゃんと結婚したの十六だぞ? 今の風散と同じ歳だぞ?」
「そんな簡単な問題じゃないでしょ、ほんっとテキトーな親父ね」
 千代木が眉間に皺を寄せながらむしゃむしゃとカヌレを食べる。
「当主はグリちゃんを殺せとまで言ったのよ? そうほいほい許してくれるわけないじゃない。そもそも父さんだってゲンマボコボコにしちゃってさ、しのの婚期延ばしに延ばしちゃって……あの子もう三十路よわかってんの?」
「くそ弱ぇのが婿とか御免だって昔から言ってるだろーが。そこは親父の特権だろ。ちっとぐらいボコられたからって別れるようじゃ、その程度だったってことさ。当主とは交渉すればいいんだよ。頭使えよお前らほんとアホだなぁ。あ、俺の子かあははははは」
「交渉?」
「っていうかっ!」
 グリシーヌは、立ち上がった。
「何勝手に話進めてるんですかっ!? わっ、私と風散くんはっ、そっ、そそっ、そういう関係じゃないってっ」
「え、違うの」
「違いますっ!!」
「顔赤いけど」
「違うんですっ!!!!」
 花子がころころ笑う。
「やだぁ、応援したくなっちゃうー。おばさんこういうの大好きー」
 この夫にしてこの妻あり――グリシーヌはこの二人は確かに風散の両親なのだと納得した。しかし彼らが始末屋ギルドの中枢にある人物だということには少し納得がいかない。
「……ま、聞いててわかったと思うけど、グリシーヌちゃんのことはちょっといろいろ調べさせてもらったよ」
 甲はどっかりとグリシーヌの正面のソファに座った。
「旧友の子だし、何つっても息子が惚れてるお嬢さんだからね。おじさん助けたくなっちゃったわけよ。……見た感じ、グリシーヌちゃんも風散のこと気に入ってくれてる、のかな?」
「え、あ……」
 梅丸がにやにや笑う。
「だーいすきだってー」
「ちょっ、梅丸さんっ!」
「うへぁ苦しいちょっと離してグリちゃん強い強い」
「はっ……あっ、ごめんなさいっ」
  千代木が笑いを堪えている。
「グリちゃんってウィザードなのに実力行使派よね」
「たまに杖上段から振り下ろしてるからな……実は剣士とかのが向いてたりして」
 兄弟の言葉にグリシーヌは気恥ずかしくなって沈黙した。
 と、
「ふぅん……意外と気が強くて物理向き、ね……でもこうなったら対処できねーべ」


 グリシーヌの正面に座っていたはずの甲の姿が、ふと消えた。


守るように両脇に座っていた千代木と梅丸が、グリシーヌが座しているはずの位置を確認するが――

「どーこ見てんだよ、バカ息子ども」
 軽々とグリシーヌを担ぎ上げた甲が、その更に後方で笑う。いつの間にそんなところまで跳んでいたのか。しかも自身のみでなく、人一人担いだ状態で。
 グリシーヌはほんの一瞬で起こった出来事に思考が追いつかなかった。言葉を発する――否、呼吸をしているのも忘れていた。
「ぎゃっはははははっ!」
 愉快そうに笑う甲の声で、ようやく息を吐き出した。



 呼び鈴を鳴らしても誰も出てこない。
 できるだけ家族揃っての食事を心掛けるティーニカ家である。もう夕食の時間も近いというのに、誰もいないというのはおかしい。風散は首を傾げ、持っている実家の玄関の鍵をドアノブの鍵穴に差して回す。
「あれ?」
 鍵は開いている。益々もって不可解だ。
「誰かいるよな……うわっ」
 ドアを開けたそこには、床に散らばる金属片、薬品の跡、火薬と絨毯の焦げる臭い。そしていつもは騒がしいはずの家の奇妙な静けさ。

 何かが起きている。

「……賊が入ったわけでもなさそうだけどなぁ」
 家人たちが裏で何を生業にしているか知っている。そう簡単にやられるわけがない。考えられる要因とすれば――
(親子喧嘩、兄弟喧嘩……あと何だろ)
 とりあえず風散は、我が家に踏み入ることにした。



「あっ……えっ?」
 ついさっきまで、自分はソファに座っていたはずだ。何故現在こんなことになっているのか?
 担ぎ上げられたまま振り返る。倒れているのは自分の座っていたソファのみ。そういえば、すこし頭がくらりとする。ソファに強い衝撃を与えてグリシーヌの体が浮いたところで一気に攫われたのだろうと妙に冷静に推測する。しかし己の置かれている状況は未だに把握しきれていない。
 甲はまだ腹を抱えて笑っている。
「こうもあっさり騙されるたァ、お前らまだまだだなー。マジウケるー!」
「なっ」
「グリちゃっ」
 立ち上がろうとした兄弟の首筋に、冷たく硬いものが当てられる。
「斬っちゃダメよ、優しくしてあげてねチル、サクヤ」
 サキュバスの鋼鉄の爪だ。梅丸が苦笑する。
「花ちゃん……いつの間に呼び出したんだよ」
「ふふふ」
 花子は微笑みながらぱたん、と手にしていた本を閉じる。
「お母さんだってまだまだ現役なんですからねー」
「さっすが花ちゃん、俺の愛する最強テイマー」
「あらー、甲くんだってさっきの動きとっても速くてもう私メロメロなんだから☆」
 年甲斐もなくイチャつき始める両親に、
「やめろ! もう俺は弟も妹もいらないぞ!!」
 千代木が素に戻る。心の底からの叫びに、梅丸もそれまで黙ってじっとしていた喜久も頷く。
「もう孫もいるんだから自重してほしいよな」
「梅兄さんの負担が増える……」
「おい喜久何で俺が子守りするのが決定事項なんだ」
「梅兄さんが一番上手」
「俺の子守りは風散で打ち止めだ!」
 グリシーヌを担ぎ、花子の肩を抱いた甲がにやりと笑う。
「じゃーな千代木、梅丸、喜久。姫君は預かったぜー」
 がこん、と音を立てて床が抜ける。そのまま甲と花子は落下していった。サキュバスたちが後を追うと、床板が元に戻る。
 静寂が、訪れた。
「…………はあぁ」
 深々と嘆息しながら、千代木が両親と囚われの侯爵令嬢が消えた抜け穴の上に立ち、床板を足蹴にする。
「そういやあのクソ親父、罠作るの得意だったのよね。アタシと同じで普段武道で動いてるからすっかり忘れてたわ」
「喜~久~ゥ?」
 次兄に睨まれた喜久は、僅かに困惑した表情になる。
「ごめん。私にも父さんと母さんの企みは読めなかった。しの姉さんと八重が怒られてたのは確かだし」
「……まぁ、でも」
 ソファに座り直した梅丸は、冷めた紅茶を一口飲んだ。
「『預かる』っていうのは――少なくとも親父はグリちゃんを殺す気はないってことだよな」
「そうね」
 倒れたソファを、千代木が元に戻す。
「あの人がその気になれば、わざわざこんなことをしなくてもグリちゃんを殺すチャンスはいくらでもあったはず。つまりアタシたちの目の前でグリちゃんを攫っていったのはパフォーマンスにすぎない」
「俺たちに知らしめる必要性……」
「もしくは何かしらの機会を与えられたか……」

 そのとき、ドアが開いた。

「何やってんのこんなとこで」

 風散の登場である。

 長男と次男と三女は、一斉に末弟の方を向く。
「あ」
「風散」
「おかえり」

 線と線が、重なった。





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 いやー囚われのヒロインって一度は書いてみたいじゃないですか。


 次回、衝撃の事実が明らかに!

 みたいな みたいな





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中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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