the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第十四話 Blow away the cobwebs



「ばーちゃん! グリシーヌは返してもらうぞ!」
 びしっ、と風散は祖母に向かって指を差す。いなほは立ち上がった。
「こら風散! 人に向かって指差すんじゃないよ!」
「はーいごめんなさーい」
 おとなしく言うことを聞く。登場の仕方に比べればどうにも格好がつかないが、本人は気にしているふうでもない。
 そのうち遅れてきた千代木・梅丸・喜久も部屋に入ってくる。
「こらフーちゃん! 勝手に突っ込むなって言ったでしょ、全くあんたって子は!」
「こいつが人の話聞くと思うかぁ?」
「風散……足、速くなった……」

 一つの部屋に、ティーニカ家の面々と侯爵令嬢が集った。



     ‐Blow away the cobwebs‐



「おー風散ーぃ。どうした顔真っ黒じゃねーか!」
 甲がげらげら笑うと、風散がぷ、と膨れる。
「だって何か罠いっぱいあったんだもん。しの姉ちゃん家ん中で火とか化学反応系の罠使うのやめろよな、危ねーじゃんか」
 しのがだって、と反論する。
「私知識罠シフだもの、しょうがないでしょ。大丈夫よ、家全焼するほどの量は使ってないから」
 千代木が呆れた溜め息をつく。
「明らかに誤爆した罠がいくつかあったんだけど……」
「兄さん、それ私じゃなくて八重が作ったやつよ一緒にしないでちょうだい」
「ひどいしのおねーちゃん何で八重のせいにするのぉー!」
「事実でしょ! 大体あんた中途半端なのよ何で物理じゃなくて罠シフと武道なんて変な組み合わせで修行してるのよ!」
「だって罠作るの好きなんだもん!」
 姉妹喧嘩が始まったが日常茶飯事なのか、スルーした花子がハンカチを取り出して末息子の顔を拭いた。
「あらあら、ほんと真っ黒。お風呂沸かしてきましょうね。あ、今日はお夕飯食べていくでしょ? 梅くんも」
「え、今日何?」
「新しく取り扱う予定のバリアート産小麦のパスタの試食をしようと思って。ちょうどお肉も安かったからミートソースいっぱい作っちゃった」
「食べる!」
「よかったらグリシーヌちゃんも食べていってね~」
 本来なら緊迫するだろうところなのに、イマイチ締まらない。何とアットホームなことか。
「はいはいうるさいよ、黙んな!」
 いなほが手を叩くと、その場が静まり返る。一気に空気が変わった。
 風散は帽子を取って母親に預けると、祖母の前に立った。
「ばーちゃん」
「梅丸の読みは当たってたようだね。全部わかってるんだろう?」
 こくり、頷く。
「俺、サリューが死んだとき、すごく哀しかった」
「謝って済む問題じゃないのはわかってるけど……小さいあんたからお気に入りの友達を奪ってしまったのは、本当に心苦しかったよ」
「デウツ鋼業は裏でゴドム軍の兵器に関する機密情報を他国に流してたんだってね。しかもサリューがそれに関与していた」
「知ってたのかい」
「だいぶ後になってからだけど」
 複雑そうに笑って返す。
「俺が泣いて頼んだって、サリューは殺されてたんだろ」
「依頼を受けたら絶対にこなす。昔からの掟だ。……恨んでるかい?」
「よく、わかんないや。もしかしたら俺も利用されてたのかもしんないしさ……でも未だにさ、形見にもらった本、一冊も読めないんだよね」
「……すまなかったと思ってる」
「謝んないで。今まで一切関わってこなかったとはいえ、俺もこの家の人間だ」
 振り返って、グリシーヌを見る。
「ごめんね。怖くなかった? どっか怪我してない?」
「あ……ええ、大丈夫……」
「よかった。……ばーちゃん。グリシーヌ帰してあげて。絶対うちのこと口外しない、そこは信頼できるから。やれって言うなら俺もそっちのことやるから」
 いなほは鼻で笑った。
「生意気言ってんじゃないよ。研究対象にしているからとはいえモンスターもなるべく殺さないようにしてるあんたに、人殺しなんかできるわけないじゃないか」
「そんなの、これから慣れてけば」
「これは慣れていいもんじゃない。特にあんたはね、こんなことに染まっちゃいけないんだよ。じゃなきゃ今までのあたしらの苦労が水の泡になっちまうだろ」
 拭いきれずに黒ずんだ頬を撫でる。
 風散の大きな目には、涙が溜まっている。
「全く、ちったぁ大きくなったかと思ったら相変わらず泣き虫だねぇ。昔の樹にそっくりだ」
「なっ、いなほ!」
 樹が文句を言おうとするが、いなほの一瞥で黙り込む。しばらく黙って見ていたグリシーヌだったが、だんだんこの一家の形態が読めてきた。
 と、いなほがグリシーヌの方を向いた。
「安心しな、帰してあげるよ。但し条件がある」
「何でしょう」
 いなほの目が周囲を見渡す。つられてグリシーヌも周りを見る。
「久々だね、全員揃ったのは」
 そうですね、と花子が相槌を打つ。
「榮(エイ)くんが剣の道場から帰ってくるのなんて滅多にないし、柊(シュウ)くんはラカリフサの支店長になっちゃったものねぇ」
「榮はともかく柊! あたしの目が届かないからって修練サボってんじゃないだろうね?」
 いなほに呼ばれた可愛らしい少年――風散は末子だというから恐らくは兄なのだろうが、どう見ても同じくらいか少し年下に見える――が、びくりと反応する。
「さっ、サボってなんかないよちゃんと毎日やってるよっ」
「ふぅん? その言葉、信じるよ? ……さて、条件だけど……風散!」
「何?」
 末の孫は祖母と向き合った。長兄はこの家で一番恐ろしいと言っていたが、不思議と全く怖くない。
「あんた、装備全部外しな」
「は?」
「そうだな……榮、茉莉(マツリ)、あと梅丸。あんたらもだよ」
 祖母の言葉に、風散は察して苦笑する。
「兄弟で戦えってか」
「剣士、武道家、シーフ……いい具合に職が揃ってるからねぇ」
「榮兄ちゃんはともかく梅兄ちゃんはどうすんだよ。投げるのないと戦えないだろ」
「そこはしょうがないね、梅丸は自前のダガー使いな。レベルは風散より低いし丁度いい」
「狡いーっ、だったら俺もガントレット使っていいじゃん!」
「じゃあ榮の剣も茉莉の鉄爪も許可しなきゃなんないね。でもあんたのそのお粗末な装備じゃ、全身固めたところでどうやったって馴染みの武器を持った榮や茉莉に勝てやしないだろう?」
「う」
「基礎ステータスとレベルなんかたいした問題じゃないんだよ。お互い丸腰状態なら、やり方次第じゃ自分よりも高レベルの相手でも倒そうと思えば倒せるもんさ。お父ちゃんの話もろくすっぽ聞かないで勝手に飛び出してったあんたがこの一年足らずでどれだけ強くなったか見せてもらおうじゃないか」
 風散は、
「……めんどくさぁ」
 不満そうな顔をしていたが、
「まぁ、でも……榮兄ちゃんと茉莉姉ちゃんと梅兄ちゃんに勝ったらいいのか。いいよ、やってやろーじゃん」
 装備を外して丁寧にテーブルの上に並べ終わると、グリシーヌの隣に移動して、手を取る。
「待ってて。すぐ終わらせる」
「……はい」
 手を離した瞬間、グリシーヌは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
 風散の目が、鋭利な光を放っていた。
(瑠璃蜘蛛の……血……?)
 彼のあんな顔を見るのは初めてだった。



 二階のベランダでぼんやりと月を眺めるフルドの背後に、真紅の髪に漆黒のドレスの悪魔が現れる。フルドは振り返らないまま声を掛けた。
「珍しいなそっちから来るなんて」
「気になるもの。フルちゃんが何を見たのか」
 ようやくフルドはくるりと方向転換する。
「まぁ飯でも食ってけよ今支度」
「私おっきいエビフライが食べたーい」
「…………ブルースビストロでも行くか」
 簡単に身支度を済ませると家を出る。ティーニカ家の屋敷が見えるところまで来ると、フルドは足を止めた。
「死神のカードが出た」
「崩壊と再生――風散ちゃんのことね」
 宵闇に溶けるように、よろづのドレスの裾が風に靡く。
「でもあの家の根本は変わらない。変えようがない、変えられない」
「そりゃそうだろよ。お前が関わっていた時間以上の歴史がある家だ」
「その中でも『仕事』に全く関与しなかった風散ちゃんの存在は異質だわ」
「でも」
 にこりと笑って、腕を差し出す。
「風散は、強い子だよ。蜘蛛の毒にも揺るがない。それでいてあらゆる風に逆らうことなく上手い具合に身を任せる」
「そうね」
 応えつつ、フルドの腕に手を添える。
「でもうちの子たちだって負けてないわ」
「お前意外と子煩悩だよな」
「ふふ。……で、フルちゃん。何が見えたの?」
「……風散の、横に」
 やや強い風が吹いた。木々がざわざわと揺れる。
 フルドのオリーブグリーンの瞳が、月光に反応するように光った。
「美人じゃないけど何か可愛らしいお嬢さん……多分あれ、例の師匠の曾孫さんだわ。ちょっと目が似てる」
「ソールの? ってことは」
 ああ、とフルドは頷く。
「ま、仇だなんていうのは形の上での話だしな」
「そう……そういうことね」
 よろづはくすくす笑った。
「ソールとフルちゃん、二人の予知能力者が見た確実な未来――なぁんだ。最初から何の心配もいらなかったんじゃないの」
「そうかな」
「どうして?」
「いなさんがそう簡単に許すはずねえよ。今頃兄弟で戦わせられてんじゃねえの?」
 まさか本当にそんなことになっていようとは知る由もない二人である。



 柄を狙ってを蹴り上げたところに、重ねて烈風撃。榮の持っていた練習用の刃のない剣は、後方へと飛ばされた。
 剣をキャッチした楓がにやにや笑う。
「はい、榮の負けー。ざまぁ」
「うるせーぞ、かー兄!」
 兄弟喧嘩が勃発しようとしているがそれは完全に無視して、いなほは満足そうに頷く。
「なるほど、速度装備がないのに速いね。榮のパラもほとんど当たってない」
「榮兄ちゃんは体が重いんだよ。確かにそれ相応の速度はあるけど、素早くスキルを出そうとして直前にどうしても腕を少し引く癖があるせいで発動がワンテンポ遅れてるしね」
「ほら榮、よく聞いときな。藤花先生の講義だよ」
「ばーちゃんそれ言うのやめて、今俺『藤花』じゃない」
「じゃあ次、茉莉」
「はぁい」
 茉莉が長い髪を結いつつ前に出てくる。風散と同じように細いが締まっているしなやかな体だ。
「風散。私はあんたが可愛くて仕方がないけど、だからって手加減はしないよ」
 立ち止まり、一礼すると、構える。
「私も武道家。顔には当てないようにとか、変な遠慮はいらないからね。全力での勝負を望みます」
 風散もひとつ、深呼吸をすると構えをとる。
「お手柔らかに」
 そう言いながらも、先程からの鋭い眼光は一向に消えない。
 気になったグリシーヌはいなほを見た。
 いなほは観察するかのように風散を見ている。
(ただ単に戦わせているわけじゃないのね……)
 彼女の思惑は読めないが、いざとなったら出ていける準備をしていた方がよさそうだ。低レベルと侮られているのか幸い杖は取り上げられていない。ポーションの入ったポーチも持っている。
 このまま何事もなければと、グリシーヌは思った。
 何故か嫌な予感がしてたまらない。





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 ティーニカ家編も佳境でございます

 ていうかこれって佳境っていうのか……?





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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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