the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/第十九話 松と蓮華の宴の支度




「解せない」
 ロテュス・デヴェレイは言い放った。千代木は苦笑し続けている。
「何故、どうしてグリシーヌがきみの弟、しかも一番下と関わっている? そしてきみも何故今までそれを知らせなかった?」
「俺も知ったのはつい最近のことだ。デヴェレイの名を聞いたときにはまさかと思ったがな。しかもお互いに好意の矢印が向いている」
「何だと?」
 耳を疑いたくなった。自分が十六歳の頃、十も年上の異性はそういう対象だっただろうかと何となく思い返す――いや、今はそんなことはどうでもいい。確かにグリシーヌは可愛い。が、十歳下の少年までも魅了するのか!
「そうなのか!?」
「はっ?」
 またしても、自分の世界に入り込んでしまっていたようだ。ロテュスは咳払いをする。
「い、いや、何でもない…………しかし十六歳、か。確かに言い出せないはずだ」
「どうする、ロテュス」
「正直なところ、わからない」
 ロテュスは憮然とした面持ちで噴水の縁石に腰を下ろした。
「幸いうちにはうるさく言う人間はいないし、ティーニカ家なら安心して妹を預けられるとは思う。……でも、僕たちの半分もいっていない年頃の少年に任せられるかといったら、それは甚だ疑問だ」
「やっぱりネックは年齢、か」
 千代木も隣に座る。
「けど、うちの弟はうちの親が『最高傑作』と言わしめるほどの男だぞ」
「最高傑作はきみじゃないのか?」
 趣味のギルド戦争の為にギルドを転々としている高レベルのシーフ・武道家ハイブリッドの千代木は、その道ではそれなりに名が知れている。その上家業の方でも歳若い割に営業が上手いと商人としての腕の評価は高い。
「強くて口が回るだけじゃ、な」
 自嘲するように呟くと、ロテュスは微かに、笑った。
「それでもきみは、それだけのものを持っている。羨ましいよ」
「俺のことはどうでもいい」
 千代木が話の軌道修正を試みる。
「ロティ。うちの弟に会ってみる気はないか?」



    ‐松と蓮華の宴の支度‐



「模造品なんて奪って何が楽しいのかしら」
 奪い返したフォームガードと鳳凰章の模造品を眺めながらグリシーヌがぼやくと、風散は笑う。
「よく見てごらん。それだけの価値があるものだよ」
「え?」
「その偽フォームガードの生地、スパイクワームの繭から取った糸でできてる。フォームガードと同じような機能はないけど、スパイクワームの繭の糸ってすっげえ丈夫で布にすれば防御力に優れるんだ。そもそも繭なんて滅多に見られないから希少価値があるんだけどね。鳳凰章の方も、純度の高い金メッキだし」
「へぇ……」
 スマグ地下道の入り口付近で待っていたカトナに模造品を手渡した瞬間、グリシーヌの足元がふわっと光った。
「あ」
「レベルアップおめでと」
「ありがとう」
 風散と共にまた行動をするようになって数日。レベルも百二十に達した。ウィザードのスキルマスターのクエストもこなし、風散も余程のことがない限りは戦闘に手を貸さなくなっていた。グリシーヌ一人だと手に負えないと判断したときだけ、「支援の練習ね」と前に出る程度になった。
「じゃ、これあげる」
 街に帰還してすぐ、ずっと持っていた細長い包みをグリシーヌに手渡す。
「え、これ」
「白金杖」
 包みを開けると、白銀色の杖が出てきた。嵌め込まれた赤い宝石といい、まるで宝飾品だ。
「きれい……」
「でしょ! これでも攻撃速度と知識ついてるんだ。今までの杖より強いし使いやすいと思うんだけど……どうかな? あ、あとね、これも使って」
 差し出したのは、金色の指輪――先程の白金杖と合わせて装備すると魔法抵抗が上昇するセットアイテムである。
「でっ、でもこんなっ……!」
「材質の割にそんなに高価なもんじゃないから遠慮しないで」
 いつもそうだ。風散は何かと装備を見繕ってきてはグリシーヌに与えている。グリシーヌと同じギルドに所属している兄・梅丸を介して渡してくることもある。
「……いつか、それ相応のものを返さなきゃね」
「いいよ、そんなの。みんなほんとに大したもんじゃないし。お下がりだってあるんだし」
「風散くんが使ってた装備?」
「その、薬回復速度の指輪とかね」

 該当する指輪を見ると――左手の薬指。

「ふ」

 気付いて顔が熱くなる。何故よりによって今そんなことに気付くのか。更に、たまに見える何年後かの姿であろう風散の顔を思い出し、思考が一時混乱する。


 ――私はそれを望んでいるの?


「グリシーヌ」
 名前を呼ばれて、我に返る。
「疲れた?」
「あ……うぅん、何でも」
「そう? ……じゃあさ、今日はもう少し、一緒にいていい?」
 上目遣いで、手を握られて、微笑んで――そんな頼み方をされたら誰が断れようか。
「……はい」
 反語。



「その口振り」
 ロテュスは眉根を寄せて、友人を見る。
「きみはうちの妹ときみのところの弟をくっつけたがっているのか?」
「何しろ自慢の可愛い末の弟だからな。顔と言動は若干幼いが、跡取り問題に煩わされることもない。武道家としての伸び代も、学も金もある。当店オススメ商品だ」
「しかし千代木」
「近年ではそのくらいの歳の差の夫婦なんて腐るほどいるし、ン十年の歳の差が当たり前の貴族の政略結婚を考えればどうってことはない」
「それは……そうだが……」
 一応貴族の端くれという自覚はある。引き合いに出されると弱い。
「それで、グリシーヌちゃんの縁談の相手は?」
「……ブレート将軍の甥御で名をジュスト。歳は二十七、騎兵隊の副隊長をしている」
「そりゃまた立派な役職で……って、ああ成程、そういうことか」
 一人納得する千代木に、ロテュスが怪訝な顔をする。
「何だ」
「この縁談、やり方によっては簡単に破談にできるぞ。お前の地位も名誉も傷付けることなくな」
「本当か!?」
「まぁ、お前がグリシーヌちゃんをうちの弟の嫁にくれるというのが前提だが?」
「う」

 ロテュスは悩んだ――義弟にするなら、「妹の望まぬ家柄も年齢も丁度よい縁談相手」か、はたまた「妹の望む、しかし自分の友人の弟しかも十六歳」か。

「きっ……決めるのはきみの弟に会ってからだっ」
 苦慮の末に出た言葉だった。
「OK」
 見透かしたようににこりと笑う。
「お前の妹が惚れ込んでるうちの天使だ、精々魅了されるがいい。……それはそうと、」
 千代木は、
「――――」
 ロテュスの耳元で、ロテュスにだけ聞こえるくらいの低く小さな声で、囁いた。
「な」
「くくくく」
 笑うと、立ち上がる。
「日取りはそっちに合わせるわ。テキトーに耳ちょーだい」
 ひらひら手を振り、千代木は街の人波の中に消えた。



 呼ばれたために一人暮らしをしている粗末なアパートではなくビガプールの屋敷に戻ると、兄がいつものように出迎えてきた。
「お帰り、グリシーヌ」
「只今戻りました、お兄さま。……どうかなさったんですか?」
「風散・ティーニカ、十六歳」

 思わぬ名を聞いて、グリシーヌは硬直した。
 ロテュスは真っ直ぐ、見つめてくる。

「きみを護る武道家だそうだね」
「どうして……それを……」
「何故、とか、どこが、とか……訊くのは野暮というものか」
「え」
 ロテュスの手が、グリシーヌの頭を優しく撫でる。
「グリシーヌ。彼のことが、好きなんだね?」


 ついさっきまで隣にいた笑顔が。
 手を引くときの温度が。
 名前を呼ぶ声が。


 胸の中に、風が吹くように。


「……はい」
 涙が一粒、流れた。
「ごめんなさい……お兄さま、私……」
「泣くことじゃないよグリシーヌ。ほら、そんなに擦ると目が腫れてしまう」
「だって……私、おかしいんです……縁談を断ってしまったら、困ってしまうのはお兄さまなのに……歳だって、すごく離れてるのに……わかってるのに、どうしても、彼のことが頭から離れない。好きだなんて言われて、心がアクアスライムみたいにふわふわ浮いてイフリィトになったかと思うくらいに体が熱くなってエンチャがちゃんとかかってるかわからなくなるし心臓なんて常時ヘイストがかかってるしもう何かいっそのことコールド攻撃を受け続けた方が」
 ぶつぶつ呟く言葉の表現がおかしなことになっている。ロテュスはぎょっとした。
「ぐ、グリシーヌ、落ち着きなさいグリシーヌ。僕は混乱攻撃を加えた覚えはないぞ!」
「うううぅぅぅぅ」
 玄関ホールだということにも構わず、グリシーヌはその場にぺたんと座り込んでしまった。
「悔しいっ……どうして私ばっかりこんな状態異常になるのよっ……」
「…………ぷっ」
 笑いを堪えているのに気付き、グリシーヌはきっと兄を睨む。
 涙がまた一雫、ぽろりと落ちた。
「何笑ってるんですか!」
「て、抵抗がっ……揃って、ないっ……」
「お兄さま!」
「いや、ごめんごめん、冗談だよ。きっ、気丈なのは知ってるけどっ……きみも女の子なんだなって思って……ふふっ、あははははは!」
「もうっ」
 ロテュスはグリシーヌの傍にしゃがみ込むと、再び頭をそっと、撫でた。
「縁談については、僕のことは気にしなくていい。何とかなる、いや何とかするから」
「でも」
「僕はきみが幸せになってくれれば、それでいい。大丈夫だよ、心配しないで。……ところでグリシーヌ。今度の土曜は空いているかな?」
「あ、はい」
「午前中に帰ってきてほしい」
「わかりました」
「よろしい。……さて、食事にしよう。着替えておいで」
 ロテュスはメイドに食事の支度を指示すると、どこかご機嫌そうに階段を上がっていった。彼を見送りながらグリシーヌはふと気付く。
「…………ん? 混乱攻撃? 抵抗?」



 一方、ブルースビストロで長兄から話を聞いた風散は、海鮮シチューを食べるその手を止めてきょとんとし、
「へぇ」
 一言だけ放った。
「案外驚かないのね」
 千代木が苦笑しながらパンを千切ると、正面の弟は口を開けた。大きな方のパンの塊をそこへ押し込む。
「ふぁっへはぁ、ふひひーうひふぉくひゃん?」
「フーちゃん飲み込んでから話しなさい」
 口からはみ出るほどのパンをそのままもぐもぐと食べ、飲み込む。
「グリシーヌは貴族だもん。縁談だってくるさ」
「で、諦めちゃうの?」
「よくわかんない」
 どんどん皿のシチューが減る。しかしそのスピードに反して食事の所作は決して雑ではない。何しろ幼い頃から徹底して叩き込まれている。
「でも、何かだいじょーぶな気がする」
「楽観的ねぇ。それとも、自信があるのかしら?」
「自信なんて、そんなの全然ないけどさ」
 シチューを食べ終え、水を一気に飲み干すと、力強くグラスを置いた。
「でも最悪掻っ攫えばいいんじゃないかなって思う!」
「ふふ。いいわねぇ、アタシあんたのそういうとこ大好きよ。でもおにーちゃんとしてはね、可愛いあんたにはできるだけ変な苦労させたくないのよ」
 風散は呆れた顔でデザートのオレンジのジュレを引き寄せる。
「そうやって、みんな俺のこと甘やかす。良くないよ、そーゆーの」
「まぁ、そう言いなさんなって。今度の土曜日、空いてる? いえ、無理矢理でも空けてもらわなきゃ困るわ」
「何?」
「身支度あるから、朝からうちに帰ってきなさい。午後にお出かけするからね。わかった?」
「えー、やだめんどい。どこ連れてくのさ」
「い・い・と・こ・ろ☆」





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 大事な弟・妹に幸せになってもらいたい、そんな兄たちの画策

 一体何をどうしようというのか!?



 わー もうちょっとで終わるぞー!






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HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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