the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/最終話 ずっと、あなたと。




  〔野比幸矢(♂・光奏師)の証言〕

 そういや、俺が初めて会ったとき、もうあいつら付き合ってたんだよな。
 ぱっと見さ、どう考えたってちょっと歳離れた姉弟じゃん?
 最初は「何で?」って思ったけど――



     ‐ずっと、あなたと。‐



「風ー散ーっ、いるかーっ?」
 呼び鈴を鳴らしながら名前を呼ぶと、中から出てきたのは本人じゃなくて兄貴の梅丸の方だった。
「朝っぱらから元気だなユキちん。風散ならいねえぞ」
「え、何で? もう出掛けた?」
「んや。先週……違う、先々週か。引っ越した」
 奥から甘い匂いが漂ってくる。ああ、朝飯の途中だったのか。
「フレンチトースト、食うか?」
「リンゴのジャムある?」
「あるある。……悪ぃ、ちょっと部屋散らかってるわ」

 そう言う割には、結構きれいだ。風散の私物がなくなって、物がないせいか。ガランガランだ。こうやって見ると、風散のものが多かったんだな。

「急に一人になるとダメだな。飯の分量調整ができなくなる」
 苦笑いしながら梅丸はフレンチトーストとホットミルクを出してくれた。
「何で風散引っ越したんだ?」
「グリちゃんと暮らすってさ。聞いたときにはもう住むとこ決めてやがった。……全く、武道になるときもそうだったけど、あいつは何でもかんでもいきなりで困る」
「何か娘を嫁に出した親父みてーな面してんぞお前」
「はは、あながち間違ってねえ」



 二度目の朝飯を食った後、教えてもらった引越し先に行ってみた。
 梅丸が住んでるアパートからそう遠くない住宅街の、小さな庭付き一戸建て。ほぅ、なかなかいいとこ住んでんじゃねーの。

「風ー散ーっ、いるかーっ?」
 ドアを開けたのは、今度は風散だった。すげえ寝癖だ。
「あれ、幸矢よくここわかったな。まだうちの人間とロテュスさんしか知らないのに」
「梅公に教えてもらった」
「つか、お前今日学校」
「若い身空でボケてんのか日曜だっての」
「あら、幸矢くん。いらっしゃい」
 今度はグリシーヌねーちゃんが出てきた……あれ、何でこの人白衣着てんだ?
「あ、グリシーヌ。測定終わった?」

 測定?

「ええ。数値は全部書き記したから、あとはまとめるだけにしてあるわ」
「ごめんね、ほんとは俺がやんなきゃなのに」
「いいのよ、楽しかったし。風散くんの方が徹夜続きで大変だったでしょう? ちゃんと休めた?」
「ありがと……これで今期の査定間に合う……」

 …………こいつら、一緒に住むって。「同棲」してるんじゃねーのかよ。これじゃまるで博士と助手じゃねーか。

「そんで、」
 徹夜続きでちょっと休んだ程度な割に、風散は結構元気だ。
「何か用か?」
「ん、えと、あの……いや、何か大変そうだからいいや。別のに頼む」
「何だよ言えよ」
「て」
「『て』?」
「手伝って……ほしいことがあって……」
「あー、いいぜ。十分くれ、支度するわ」

 お?

「あっさりしてんな。いつもは『めんどくさぁ』って言うのに」
「ここ数日篭ってたからさ。体動かしたいんだ」
 ぐーっと、伸びをする。

 あれ、こいつまた身長伸びたか? え、どうしよ差が縮まんねーぞこれ。

「あ、じゃあ、私も一緒に行っていいかしら?」
 これまた徹夜明けの割にピンピンしているねーちゃんが、白衣をハンガーに掛けながら言う。ほんとこの人細いよなぁ。その分胸でけーの目立つし。
「幸矢くん、あの……できるだけ急ぐから……」
「ん? ああ。いいよ、待ってるから。シャワーと飯だろ?」
「ありがとう!」
「んじゃ飯でも作るかねー」
 着替えを取りにばたばたと二階に駆け上がるねーちゃんを尻目に、風散がでけぇあくびをしながら台所に向かう。

 ……何だろうなぁ。こいつら、何か「恋人同士」って感じしねーなぁ。

「あ、幸矢。食ってく?」
「いや、朝飯は2回食った」



 手伝ってほしいってのは、アレだ。マップ製作人レベル3のクエスト。
 半獣の隔世遺伝で光属性の術を操る光奏師ったって、俺はそんなに強かない。冒険家なんて名ばかり、本業は所詮十一歳の小学生――いや、そりゃあ曲がりなりにも「冒険家」だからな。そこいらの十一歳に比べりゃ妙ちくりんな力は使えるし、フツーに喧嘩だって負けたことはない。つっても、ガキはガキなんだから――戦闘力なんざ高が知れている。
 そこで武道家の風散に手伝いを頼んだわけだけど、何だか運よくウィザードのグリねーちゃんまでついてきた。ふふん、こりゃ楽勝だな!

「トワイライト滝の熊と、ソルティケーブの古代ヴァンパイアだったっけ……あ、お昼ブリッジヘッドで食う? 魚美味いんだよな」
「魚料理もだけど、パプアさんのお店のカニ料理も美味しいのよね。ラピスト……食べたいなぁ」
「ラピストかぁ。店で注文すると高いからここしばらく食ってないなぁ。時間余裕あったらキングクラブ狩ってって作ってもらおっか」

 ……仮にもモンスターに分類されるでけぇカニを狩って持ち込みとか、ワイルドだなぁおい。

「幸矢、カニ食えるか?」
「ん、ああ。好きだけど」
「すずろ姉ちゃんもカニ好きなんだよな。お土産に獲ってこーぜ☆」


 コジっておっさんからクエストを受諾して、まずはトワイライト滝に向かうことにした。この順番の方が効率がいいらしい。
 絨毯に三人も乗ると、流石に飛行高度は低くなる。それでも意外なことにスピードは落ちない。安定するからと、俺はねーちゃんに後ろ抱きにされた姿勢で座らされた。うひひ、役得役得。

「なぁ。お前ら何で付き合ってんの?」

 何となく、訊いてみる。どう考えたっておかしいだろ。ねーちゃんのが十も年上で、聞きゃあ初めて会って数ヶ月で婚約までこぎ付けちまったとかさ。

 と、前に座ってる風散が振り返った。
「何でかねぇ? 何でだと思う? グリシーヌ」
 話を振られたねーちゃんも、首を傾げる。
「うーん……何でかしらね? 確かに好きだからではあるんだけれど……それだけじゃ、ない気がするのよね」
「何だそりゃ」
「幸矢くんも、もう少し大きくなったらわかると思うわ」
「ちっさくて悪かったな」
「いや、あの、そういう意味じゃなくてね」
 と、街を出る寸前だった。
「何かいい匂いすんね」
 香ばしい匂いが漂ってきた。港町だけあってか、魚の焼けるような――

 いや。

「魚だけじゃないわ、これ。何だか煙っぽい……油の臭いもする」
 確かこの辺りの海沿いには、船の格納庫を併設した漁師の家が並んでいる。風散が、絨毯の上で立ち上がった。その目線の先には、黒煙。
「火事だ」



 消防員じゃないったって、冒険家つーのは人助けするクエストをこなしたりもする奴も結構多いし、人手は多い方がいいからな。俺たちも例に漏れず、その火事の現場に行ってみたわけよ。
 火の海とまではいかないまでも、漁師の家がすげえ勢いで燃えていた。近隣の住人と思しき奴らがバケツリレーをしているけど、その程度じゃ鎮火するはずもない。

「海の近くで水の元素含有が高いといっても……ちょっと火の手が大きいわね」
 険しい顔でグリねーちゃんがチャージングする。
「皆さん、ちょっと下がって下さい!」
 素早くヘイストをかけたねーちゃんは、龍の心臓のエキスが入った特製ポーションを片手にウォーターキャノンを連発し始めた。
「物資足りるかしら……」
「グリシーヌ、ちょっとだけど俺の手持ちの青ポ」
「おっ、俺のもっ、これフルチャっ」
「ありがとっ!」
 風散と俺の物資を併用しながらウォーターキャノンを打ち込んでいくと、火は少しずつ、本当に少しずつ小さくなっているようだった。この調子なら、早く鎮火するだろうとみんな少し安心し始めた


 ――と思った矢先。


「やだあああぁぁぁぁっ、シロコぉっ、シロコおぉっ!」
 ガキの泣き叫ぶ声。
 燃え盛る家に住んでいた家族の一人なのか、俺の半分くらいの年頃の小さな男の子が、母親と思われる女の人に抱きかかえられながら号泣していた。
「やだっ、やだぁっ! シロコもいっしょおおぉぉぉっ! シロコっ、シロコぉっ!」
「可哀相だけどもう無理なのよ! 危ないからおとなしくしてなさい!」
「やぁだあああぁぁぁぁっ」
 風散が、俺の方を向いた。
「幸矢。お前の今あるだけの火抵抗装備、貸せ」


 おいおいおいおい。


「ばっ……バカかお前! あんな中入ってったら死ぬぞ!」
「早くしろ!」
 珍しく真剣な顔。勢いに押されて、俺は火属性抵抗の効果がある指輪を二つ渡す。
 飲み切ったポーションの瓶を足元に放ったねーちゃんが、ウォーターキャノンを繰り出しながら器用に杖を握る方の手に嵌められた指輪を外し、風散に差し出した。
「使って!」
「ありがと! ヘイと霧と水壁ちょーだい!」
「はいっ!」
「じゃ、行ってくる!」
 何だこれ。息ぴったりってレベルじゃねーぞ。





「――まぁ、何だな。絶対的な信頼感? みたいな? そういうのとかあるんじゃねーの? よくわかんねーけど」
「へぇ」
 隣を歩く小娘は、感心したように相槌を打った。
「それで、その、シロコ? ちゃん? は」
「ああ、猫だったんだけどな。シロコなんていうくらいだから多分白猫なんだろうけど、煤で真っ黒黒になって無事発見・保護されたよ。ついでに風散まで真っ黒だ。グリねーちゃんも疲労してるし物資全部使い果たしちまうし、お陰でクエストは次の週に持ち越し。……ま、死人が一人も出なかったからよかったんだけどな」
「そうですか」
 嬉しそうに笑う。

 ああ、こいつやっぱ顔は母親似だな。でも色は丸っきり父方って、まぁキレーに分担して遺伝したもんだ。

「あー、俺よくこんなん細々覚えてたな」
「っていうことは、ですよ?」
 力強く腕を組まれる。
「私と幸矢さんも、そうなれますかね!」
「何でそうなる!」
 ちくしょう、何でこいつ可愛い顔して武道家なんてやってんだ。離れようとしても振り解けん!
「前から言ってるじゃないですか。私は幸矢さんの妻になりたいんです。ていうかなります!」
「おめーは両親に似て変なところで強引だな。それ自体は嫌いじゃねーけどとりあえず離せアレクシア」
「嫌ですー」
「何度も言うが幾つ離れてると思ってんだ。俺ァおめーみたいな小便臭いガキにゃキョーミねぇんだよ。ありきたりな表現だけどな、実際俺はおめーのオムツ替えてたんだぞ」
「あと三年経ったら同じ土台に立つ自信はあります」
「そんな自信持たんでいい」
「幸矢さんが昔よく使ってた言い回しだって母から聞きましたけど?」

 何だってそんなこと娘に吹き込むんだあの女は……。

「ふふふ。幸矢さんが父と母に手伝ってもらったクエを、今度は私が幸矢さんに手伝ってもらう。これってなかなか運命的だと思いませんか」

 父親に似た身軽な武道家の小娘は、あっという間にブラウンベアーをボコボコにしてにこにこしながら言う。ちなみに俺は支援スキルである光のカーテンを彼女にかけていない。これって俺の手伝い必要ねーんじゃねぇか?

「たまたまだろ。ていうかおめーさァ、親戚多いんだからそっちに頼むとか」
「幸矢さんがいいんです」
 振り返るその背後から、ソードスパイダーが近付いて――

「おい!」

 オプティカルホール一撃で仕留めると、小娘はきょとんとして後ろと俺とを交互に見た。
「危ねーだろ余所見すんな」
「……ほら、ね」
 ぎゅっ、と、抱き付かれる。やっぱり力強い。


 ……あ、こいつ意外と胸大き…………っておいガキ相手に何考えてる俺!


「つまり、父と母はこういう関係なんですよ」
「俺支援じゃねーんだけど」
「私が今油断したのは、幸矢さんが一緒だったから安心してたんです。このひとと一緒なら大丈夫だって。父と母は私のような油断はしないと思いますけど、きっと一緒にいるのはそういうことなんです」


 あぁ――成程。


「……そう、だな」


 正直、正確には何て表現すればいいのかも、ほんとにそういうことなのかもわかんねーけど。


 多分、少なくともあの二人にとっては、一緒にいるには充分な理由なんだろうな。





「んっ……あぁ~っ。はぁ、終わった終わった。これで来月の査定もSいただきだぜぃ☆」
「お疲れ様。お茶入れましょうか」
「ありがと。毎度毎度お手伝い感謝してます奥さま、優れた助手を持って僕は本当にシアワセです」
「いえいえ。楽しいからいいんですよ『先生』」
「そういや朱桜(スオウ)はまた幸矢と?」
「ええ、地図クエですって」
「あのタラシのどこがいいんだかねぇ。我が娘ながら悪趣味……」
「あら。幸矢くんは私が最も信頼する光奏師よ? 口が悪いだけで、ああ見えて優しいし」
「あ、そー……ならいいけどさ。……ところでグリシーヌ」
「なぁに風散くん」
「そろそろ体、動かしたくない?」
「……ええ、そうね」
「じゃ、後で久々にペアハン行こっか!」
「はい!」



     <Happy together and never end!>





------------------------------



 はい、本編終わりです。


 連載当時は第一話から最終話までを書き上げるのに謎の空白の時間も含めて1年ちょっとかかりまんた

 勢いで書き始めて勢いそのまま突き進んだ割にそれっぽくちゃんとまとまった気がするので、書き上がったときの達成感はものすごかったです

 そしてやっぱり「ゔぇええええぃ甘ったるいZEEEEEEE」とか言ってHPを削りつつも何だかんだ自分はハッピーエンドを書くのが好きなんだなー と



 またこういう勢いで始まったけど何とかなる話を書けたらいいなぁ



 とりあえず年内に無理矢理本編うpを果たしたので、番外編2話と拾遺1話は年明けにゆっくりうpしていこうと思います

 あとは、この話で暗躍していた千代木とロテュスの過去の話『Golden』やら、ロテュスの嫁取り話『La lune est belle』なんかも手直ししつつ載せられたらいいですねハハッめんどくせえ



 今年中にもっかいブログ更新できるかなー?

 がんばります。





拍手

コメント

中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

カウンター

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

最新CM

[03/28 るん]
[11/22 アサルト]
[08/04 アカアオ]
[01/13 れぃす]
[07/07 ぜっさんはつばいt(ry]

ついったん

アクセス解析