the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

風に舞う花/番外編 マユリ・コルムの場合





 とある生意気な小僧の話をしよう。

 生家は豪商。兄と姉にそれなりに名の知れた武道家がいる。しかも姉ちゃんの方は結構な別嬪さんで、フッた男は数知れず、自分より強くなければダメだとボッコボコにしちまうとか何とか。


 で、本人はというと――


「ごるァ風散ぃ! てめぇまだ十三研使ってんのかいい加減にしろ俺の論文締め切り過ぎたら損害賠償と慰謝料請求すっぞ!」
「いんちょーが十三研使っていいって言ったもん」
「ふざけんな! おめーの縄張りは九研と十研て決まってんだろ今回俺博士号かかってんだぞ!」
「マユさんも博士号持ってるじゃん」
「おめーはその歳でもう三つ持ってるからいいかもしれねぇけどなぁ、俺はこれで二つ目なのわ・か・る・か・なぁーッ!!?」
「ぎゃああぁぁぁマユさんがいじめる! 誰か助けて!」
「いいからとっとと明け渡せこの野郎オォっ!」


 俺より十も年下のくせに、俺からゴドム国立学士院主席の座を奪い取り、且つ俺よりも早く博士号を三つ取得し、更に魔法生物研究室の室長に就いたと思ったら副室長に先輩である俺を指名するという生意気ぶり。


 そいつの名前は、風散・ティーニカ。


 俺がこの世で一番嫌いな奴だ。





     ‐マユリ・コルムの場合‐





「マーユーさーんっ、ひっさしぶりー!」
「おぅ」

 きらきらした銀色の髪に、すぎるほどに鮮やかな紫の目。まぁ陳腐な表現だけどアメジストがあしらわれた銀細工のような色彩は、きれいではある、と思う。


 但し落ち着きがない。


「はいお土産あげるー」
「……何だこれ」
「ハノブの鋼鉄チョコ! すっげぇ硬いの!」
「美味いんだろうな」
「知らね。食ったことねーし」
「食ってからよこせよ不味いもんなんかもらっても嬉しくねえよ」

 シーフになるとか言って何でか武道家になり一時休学しているうちの主席サマは、半年に一度院内査定のレポートを提出しに顔を出す。もう二年近くその状態が続いているんだが、最近とみに今まで以上のプレッシャーが……

「…………風散。お前もしかして背ェ伸びた?」
「ねーマユさんこれあんま美味しくないかも甘くないよ全然」
「昔から言い飽きる程言ってるけどヒトの話聞け」
「あ、そだ。ねーねーマユさん、こないだ俺来たときいなかったっしょ? どこ行ってたの」

 ほんっとヒトの話聞きゃしねえなこのクソガキャ!

「あー。実家実家」
「マユさんちってスマ学の先生の家だったよねー? 何か面白い本いっぱいありそう今度行っていい?」
「何だその言い方お前付き合い始めの彼女か! つーか来んな!」


 ああ。
 マジで勘弁してくれ。



 俺の生まれたコルム家は、代々スマグの公立魔法学院で教鞭を取っている、いわゆる「由緒正しいウィザード」の家系だ。
 なんつっても、別にスマグで権威を振るっているわけでもない。ただ純粋に「家」としては古いが、みんなウィザードってだけで特に秀でた能力を持つ奴がいるでもなし。
 ま、それだけでも誇れるんだろうな。うちの一族の年寄りどもは変にプライドが高くて、偉そうな口ばっかり叩きやがる。


 そんで例に漏れず、そんな一族のホコリタカイ職を受け継ぐでもなく古都の学士院でモンスターの研究をしてフラフラしている俺に対してもうるさい。



「マユリ、お前取る取る言いながら次の博士号は」
「はいはい、審査は来月ですよー」
「勤勉なのはいいがな、我が一族はウィザードなのだ。子どもに遅れを取る程度の研究など早々に見切りを付けて」
「首席サマは別格なんだよあいつ頭の出来がフツーじゃねえもん。うちだってどうせラーガって立派な跡取りいるんだからいいじゃねえか。ウィザードとしちゃ出来損ないの俺が輝けるのなんてこのぐらいしかねえんだよ」
「やるならトップに立てと言ったはずだぞ」

 だったらてめえがなってみろってんだ。自分で言うのもアレだが学士院の二番手だって相当立派な地位なんだぞ。

「まぁ、それはそれとしてだ。マユリ、アフティのところのお嬢さんなんだが」
「あーあー聞こえなーいもう説教したし気は済んだな俺帰るぞー」

 誰が家の為に見合いなんかするかよ!


 親が心配するのも無理はない。俺も二十七だ。身を固めたっておかしくはない年齢ではある。しかもたまにフィールドワークやサンプル摂取に出るもののほとんどは学士院に篭り切り、学士院から徒歩十分の安アパートにはシャワーを浴びたり着替えをしに帰る程度だ。
 学士院にだって女が全くいないわけじゃあないが、何せ在籍者の年齢はバラバラだしその道を極めようという変人ばっかりだし、浮いた話なんてごくごくたま~に出る程度で、皆無に等しいといった方が正しい。特にレポートや論文の締め切りが迫るとみんなピリピリしてるしな。たまにみんなで何か作って食べるパーティー的なことをしているぐらいには仲はいいけど、同志というか仲間というかライバルというか、そういう意識の方が強い。

 かといって、俺に別にそういう願望がないというのでもない。俺もレベルは低いけど一応ウィザードの端くれではあるし、研究の資料を集めにスマグにある図書館や学校や研究所、そして実家にちょくちょく寄るんだが、よく行く公立の魔法学院にちょっと気になる子がいたりして。


「あ、マユリくーん!」
「よう、ネフェリィ。どうよ、こないだ貸した本使えた?」
「もーばっちりですー! さっすがゴドム学士院学士のオススメは違いますねー!」

 大学で魔法科学を専攻しているネフェリィ・ラドーは母方の従妹にあたる。吹けば飛ぶような細っこくてちっちゃい娘で、外見的にどう見てもウィザードというよりプリンセスなんだけど、ウィザードとしての魔力も技術力も俺よりもずっと上だ。
 まぁ、確かにどっちかというと可愛い部類に入れてもいい――が、俺が気にしてるのはこいつじゃない。

「あ、マユリくん、そういえばですねー」
「ん?」
「グリシーヌ先輩、ガッコ辞めちゃいましたよー」
「えっ」


 何だって。


「えっ、ちょっ、マジで!? 何でさ!!?」
「何かー、教員免許取ったはいいけど初等部にも中等部にも空きがなくってー、冒険家協会所属のフリーのウィザードになっちゃったみたいですよー」
「は!? 意味わかんねぇ! フリーのウィザードって、だってあのコ貴族だろ!?」

 ナクリエマの侯爵の妹と聞いている。何もしなくても充分生活していける身分だろうに。

「んー、そうですけどー。でも庶子なんですよねー? お兄さんと母親が違うって言ってたしー」
「あっ、そだっけ」

 腹違いの兄妹か……そりゃ遠慮もあるわな……。


 ってことは、だ。ってことは、だ。


 二通りの可能性が考えられる。


 まず一つ目は、「このままサヨウナラ」パターン。ネフェリィのお陰で彼女とは多少の交流はあったものの、最も自然な関係性の消滅だ。


 もう一つは――


「あー、でもー、たま~にこの辺来てるみたいですよー。スウェブタワーで狩りしてるときもあるって言ってたしー、こないだイリス先輩が里帰りしたときも会ってたみたいだしー」


 そう、この近辺に来たときに会えるかもしれない。そのときに声を掛ければいいんじゃねえか!?

 そうだよ、今からだって決して遅いわけじゃねえ。攻め入れば意外と何とかなるかもしれねえじゃん!?


「ネフェリィ。次いつ来るとか聞いてる?」
「あー、でもー」
「何だよ」
「そういえばこないだ来たときー、男の子と一緒でしたよー」


 何だって。


 ――いや、待て、よく考えろ。

 ネフェリィは「男の子」と言った――つまり、「男の人」ではないということだ。


「俺チャンス!」
「何の?」
「彼女ゲットの……………………って、」

 振り返ると奴がいた。

「…………風散、何でここにいるんだよ」
「マユさんのストーカーだーからー」
「キモいこと言ってんじゃねえよ」
「うっそーん☆ ちょっと用事があってね。……あぁ、そだそだ。こないだ学士院一人で行ったから紹介できなかったけど今丁度一緒にいるんだ」
「あ?」
「俺ねぇ、結婚するんだー。まだ何年か先だけど」
「はーぁ? お前が? 結婚?」

 ちょっと見ない間に大人みたいなこと言うようになったなこのガキ。

「じゃーん! 婚約者のー、グリシーヌ・クリスティン・デヴェレイさんでーす!」


「え」


「あら」


 俺の嫌いな年下の上司のすぐ後ろにいたのは、俺が密かに好意を寄せていた女だった。

「ああ、マユさんってマユリくんのことだったのね。私てっきり女性なんだと思ってたわ」
「…………よぅ、グリシーヌちゃん久しぶり……」



 何だこれ。


 俺どんだけこのガキに負かされれば許されんの……。





 ダイアーウルフの爪と毛のサンプルが必要だからと言い訳(いや、実際必要なんだけどさ)してタトバ山に逃げようとしたら、空気の読めない小僧は

「じゃあ俺マユさん手伝うー!」

 とか何とか言って一人で勝手についてきやがった。マジうぜえ。

「ねーねーマユさーん、何怒ってるのー?」


 お前のせいだよ!!


「べっつに怒ってねぇし」
「グリシーヌと知り合いだったんだね」
「お前ぐらいん時からずっと知ってるよ」


 ああ、そうだよ――お前ぐらいのときから、ずっと好きだったんだよ。
 きれい、っていうんじゃないけど、結構可愛いし、おっぱいでけぇし。
 確かにちょっと変わってるとこもあるけど、学者としての立場で話すことが多いって思えばすげえ頑張って勉強してる努力家だってよくわかったし。


 何より、自分の身分や俺の家のこと、俺自身の立場に変に遠慮することなく、フツーに接してくれるのが嬉しかったんだ。


「マユさんマユさん」
「何だようるせえなちょっとは口噤んで歩けよお前」
「ひょっとしてさ、マユさんてグリシーヌのこと好きだった?」


 おおおおおお前って奴はああぁぁぁ!!!!


「ばっ、おまっ、なにゆって」
「あー図星かぁー」


 死にたい。


 と、


「ふふふ」

 本当に、嬉しそうな顔をして、笑った。

「やっとマユさんに勝てた感じがする」
「はぁ? 何言ってんだお前。頭の出来も学者的地位も実家の財力も冒険家としてのレベルもお前のがずっと上だろが」
「でもマユさんより十コも下だよ。研究だってマユさんのが内容細々してるし実験だってすっげぇ丁寧にやってるし、研究室も論文もめっちゃきれいだし、マユさん背高くてカッコイイじゃん!」


 あああぁぁぁぁ何でこいつはすぐこういうこと何の濁りもない澄んだ目で真っ直ぐ見ながら言うんだ幼児か!


「せっ、背はお前っ、もうすぐ抜きそうじゃんかっ」
「うん。目標百八十三センチだからね。あと九センチ伸びる予定ー」
「でけえなおい!」
「ちよ兄ちゃん抜くんだもん。……あ、マユさんエンヘイちょーだいあそこにダイアーさんいる」
「ちょ、おま」

 俺が支援を掛ける前に小僧は走り出し、あっという間に狼を沈める。何こいつ滅茶苦茶強ぇ、支援いらねえじゃん……。
 ぐったりしている狼の前足を取ってサンプル採取をする奴は、俺の方を向かずに言った。

「グリシーヌと一緒にいる時間、俺よりマユさんのが早かったし長かったのにね」
「……そうだな。ま、それでもお前と実際会う前もお前の本めちゃくちゃ好きで読みまくってたみたいだし? 『巡り合わせ』ってやつじゃねえの?」
「珍しい、マユさんが非科学的なこと言ってる」
「何、俺そんな冷徹に見えるわけ?」
「うぅん。マユさんは優しいよ」


 また! またナチュラルにこんなことを!


「だからね、ちょっとさっき不安だったんだ。マユさんはグリシーヌと同い年だし、同じウィザードだし、カッコイイし、取られちゃったら嫌だなって思ったんだ」



 成程。

 一応コンプレックスと重圧はあったってわけか。


 いわゆる天才児だからって、全く努力してないわけじゃない。
 好きなように自分の知識欲と好奇心を満たしても構わない代わりに、周囲の期待に応えろという条件をのんでいるようなものだ。
 しかもこいつの場合は、「首席」に更に「最年少」なんていう本人も不本意だろうレッテルが貼られて。
 そうなったら、自身が望んだとしてもなかなかその地位から降りられないし、降りることは許されない。

 歳が若いというのは、ときに武器にもなるし、逆に足枷にもなる。


 こいつもこいつなりにそれを感じていたんだな。


「何だそれ。あのコはそんな簡単に他の男に靡くタマじゃねえだろ。信用してやれよ」
「だってグリシーヌ可愛いから結構いろいろ寄ってくる……困る……」
「泣ーくーな全く図体ばっかりでかくなってガキのままだなお前は! それから守るのがお前の仕事だろうが!」
「そっか! マユさん頭いいな!」
「お前に言われっとムカつくんだよ」
「へへ」

 俺にどれだけ罵られてもにこにこしている。何だこいつどMか?

「あのね、あのね、マユさん。俺ねぇ、次に学士院戻ったら蜘蛛の研究するんだ」
「ってこたァ、お前、もういろいろデータ集め始めてんな?」
「当ったり前じゃーん。……ね、マユさん。俺来年になったら学士院戻るつもりなんだけど、共同研究やらない? 多分マユさんも興味持つと思うんだよねー」


 これは推測でしかないんだが。

 こいつは重圧を感じても、それを凌駕するポテンシャルとバイタリティーで何とかしちまうんだろうなと思う。
 興味がないことはほんとに、全っ然覚えないし、面倒臭がって見向きもしないけど、その分食指が動いたら全力。しかも色眼鏡の着用はなし、その分発言にも遠慮がないけど。
 いや、奴の思考及び行動パターンからすると、もしかしたらプレッシャーを感じることはたまにあっても、すぐに解決してしまうかそれ自体にあまり興味がないから長続きしないのかもしれない。



 ああ、だから迷いなく前に進み続けるのか。



 そう考えると奴の意外と忘れっぽい――よく言えば「切り替えが早い」ところは利点であるという見方もできる。



 俺にはないもの。



 俺がなかなかこいつを追い越せないのも、彼女が惹かれるのも、無理からぬ話ってわけか。しかも今のこいつは、学士院にいた頃よりも確実に見える世界が広くなっている。

 そりゃでかくなるはずだわな。



 …………そうだな、うん、正直に言うとな。



「俺お前よりずっとか弱いんだからな、フィールドワークんとき全身全霊をもって守ってくれるってんなら付き合ってやるよ」
「いいよ!」
「軽いなおい!」



 頭脳も家も恋人も、ついでにその思考も行動力も、ちょっと羨ましいんだよ。クソが。





     <了>





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 これまた第二十話の後のおはなし


 マユリというフルネームはこの作品が初出ですが、実は第十話に「マユさん」と名前が出ています

 家族に溺愛されまくっている風散を嫌う存在というか、勝手にライバル視している存在とかいたら面白いかなぁ と

 とはいえ本気で嫌いなのではなくて、どこかに「こいつすげぇな」っていう敬意もあるし、何だかんだ文句たれながら相手をするのを楽しんでいる節もある

 ペースに巻き込まれ振り回される、そんな学士院でのお兄ちゃん役・マユさんと、風散の学士院での立ち位置を少しだけ出しておきたくて書いたものです

 ちなみに風散がマユリに懐いているのは、マユリの雰囲気が少し梅丸に似ているからみたいですよ ( 'ω')





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中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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