the Drop Down Sirius

日常・一次創作・二次創作ごった煮

天国は月のとなり/第二話 三日月型の記憶の断片





   第二話 三日月型の記憶の断片

 


 六月最初の日曜日。

「……何か忘れてるような気がする……」
 壬廉が昼食の焼きそばを食べながらぼそりと呟いた。風呂上がりの赫夜が脇腹をばりばりと掻きながら自分の皿を寄せる。
「わたしとななちんとやっちんの合同誕生会はもう少し先だよ」
「そんな派手な催しものを忘れるか」
 もう今回で十二回目だ。今度の七日にななみが、八日に弥潮が、そして十日に赫夜が十八歳になる(ななみと弥潮は状態としては双子だが、生まれた日付が違うので戸籍上は普通に姉弟である)。
「ばあちゃんと飛雁さんと正晴さんと朱莉さんの命日ならもう過ぎたよ」
「それは一ヶ月も前だろうが。…………何だろうな」
 とうとう箸を止めて考え込む。赫夜は壬廉の焼きそばを覗いた。
「だし粉と青のりは乗っかってるよ」
「当たり前だ。いくら何でもついさっきのことなんか忘れん」
「ミカは年寄りだからねぇ」
「誰のせいで老けたと思ってやがる」
 イライラとしながら壬廉は食事を再開した。すると呼び鈴が鳴って、ドアが開く。
「姫ー。支度できたー?」
 ななみのお迎えだ。今日は弥潮と三人で映画を見に行く約束をしている。
 が、
「何やってんのよ! 風呂上がりたてじゃん!」
 ななみのお叱りに赫夜は慌てるでもなく友人の方を向いた。
「ななちん。ドライヤーとフォームは洗面所」
「バカっ、ひとにやらせんじゃないよこのお姫さまっ!」
 なんて言いつつななみは部屋に上がり込んで洗面所に向かう。将来は美容師を志望している彼女は、赫夜や弥潮、兄の太洋の髪をいじるのが好きなのだ。
 すると扉の後方から弥潮が覗いた。
「こんにちはー……あ、壬廉さん。お食事中に失礼します」
「おぅ、弥潮。お前はいつ見てもよくできたいい子だな、あのとぼけた兄貴と礼儀作法を知らない姉ちゃんと違って!」
「い、いえ、そんな」
「上がって待ってろ。時間かかるから。緑茶でいいか?」
 壬廉が立ち上がって冷蔵庫を開ける。弥潮は赫夜の隣にちょこんと座った。
「あ、お構いなく」
「やっちん、焼きそば食べる? あーん」
 赫夜が一口分取った箸を向けると、弥潮は少し躊躇して、思い切って食いついた。
「あ、おいしい」
「でしょー。上島家秘伝の味よ」
「作ったのはおれだぞ」
 グラスを四つと緑茶の入ったペットボトルを持った壬廉が呆れながら腰を下ろした。並んだグラスに素速く、しかも均等にお茶を注いでいく。
「弥潮。お前、いい加減このバカぐや姫とは別れた方がいいぜ。こんな『自分が地軸』な女よりもっといいのなんかそこらにゴロゴロいるぞ」
「いや、まぁ、はい」
 弥潮が曖昧に返答しながら頭を掻くと、赫夜は睨む。
「やっちん!」
「はいっ、ごめんなさいっ」
 好きすぎるとは困ったもので、弥潮は赫夜に全く逆らえない。
「全く。ミカなんかに唆されるんじゃないよ。この年寄りはさっきだってアルツハイマーだったんだから」
「えっ、アルツハイマー?」
「弥潮、真に受けるな。おれは正常な二十三歳の若者だ」
 とはいうものの、やっぱり先程から頭に残る何かが気になる。

 一体何だろう。

 もどかしい。

「そういえば、」
 ななみがドライヤーとフォームを手に戻ってきた。
「ミカさん。今朝太兄が慌てて出かけてったけど?」
「太洋が?」
「礼服でさ、お金下ろさなきゃって飛び出してったよ」
「礼服……」
 そのまま壬廉は沈黙した。
 五秒後。
「あっ」
 抜け落ちていた記憶のピースが、気になってしょうがなかった隙間にぴったりと当てはまった。
 咄嗟に立ち上がって、冷蔵庫にマグネットで貼り付けてあった封筒をひっ掴み、中の紙を出す。
「………………今日だったか!」
 壬廉は慌ててクローゼットから礼服を引っ張り出し、赫夜にクリーニングのビニールを剥ぐように言うと洗面所で歯磨き・洗顔を済ませると頭髪を整え、素速く用意された礼服をまとう。
「さて。ネクタイはどこやったかな」
 ななみに髪をセットしてもらっている赫夜が見上げた。
「何? ケッコンシキ?」
「そ」
 言いながら、壬廉は祝儀袋と筆ペンを赫夜に差し出した。
「名前、書いて。金額は三万」
「自分で書けよー」
「お前のが字上手いだろ」
「似たようなもんだと思うけどなぁ」
「じゃ、弥潮」
 えっ、と弥潮はいきなり振られて驚いた。赫夜が祝儀袋と筆ペンを手渡す。
「頑張れやっちん、書道二段!」
「はい」
 言われるままに、弥潮は祝儀袋に壬廉のフルネームと金額を書いた。
「浅木香乃子さんの結婚式ですよね」
「よく知ってるな」
「中学の時、演劇部が文化祭でやる劇の脚本書いてもらったんです。だから、当時の部員で電報送ろうって先週連絡があって」
「脚本家になって月9のドラマ書いてやるー、とか言ってたくせに。年上の男なぞに孕まされおって」
「旦那さん、いとこらしいですよ」
「へー」
「いとこねぇ」
 壬廉と赫夜は顔を見合わせて、にやりと笑った。
「あり得ねー!」
「こら姫っ、頭動かさない!」
 ななみがブラシで赫夜の頭を小突いた。
「そりゃ、ミカさんと姫は特殊だもの。いとこだなんていっても戸籍上での話だし、実際親子だし」
「そーよ。ミカとわたしは子離れしないパパと娘だもん。ねっ」
「そうそう。厳格な親父とファザコンな娘だ」
 壬廉は再びクローゼットを開けて、奥まで顔を突っ込んで探る。白いネクタイをしゅるしゅると手早く締めると、立派な好青年ができ上がった。
「よし。完璧!」
「普段と変わんねぃよ!」
 赫夜は笑った。壬廉は営業でも服装と言葉遣いはしっかりしている。
「じゃあ出陣してくらぁ。紅白すあま楽しみにしとけよ、バカ娘」
 祝儀袋とタバコと財布、携帯電話をポケットに押し込んで、壬廉は部屋を出ていった。三人は、
「行ってらっしゃーい」
 声を揃えて見送った。


 紅白すあまは引き出物に出されそうにもなかった。というのは、洋風の立食パーティー式披露宴だったのだ。
 駆け込んだ壬廉が肩で息をしていると、咲草太洋に肩を叩かれた。
「懐かしーねぇ、遅刻魔東条。よく門前でお説教くらってたのが懐かしい」
「うるせぇ。電話しろよ」
「だって圏外か電源切れてるってゆーんだもん」
「えっ……あ、ほんとだ」
 壬廉は高校生の頃までよく遅刻をしていた。とはいっても、それは学校に限ったことで、オフでは約束の時間はほぼ守っていた。別に学校が嫌いだったわけではないのだが。
「おーミカちゃんじゃん!」
「ほんとだタラシの東条がいる!」
 高校時代の友人たちがわらわらと群がってくる。
「うわー五嶋でかっ。まだ身長伸びてんの?」
「おい! シカトすんなよ東条!」
「タラシにタラシと言われる筋合いはねえぞ、伝説の校内二十人斬り菊西高のタラシめ」
「へへ」
 元菊西高校のタラシ・相沢総次郎はへらへらと笑った。
「そういやぁ、あの子どーしてる? ほら、可愛いいとこのさ」
「どうもこうも。相変わらずダラダラ生きてるよ」
「いい加減ちゃんと紹介してよぉ、東条~っ」
「やだね!」
 太洋がぷふ、と笑う。
「無理だよ無理ムリ。赫夜ちゃんはミカちゃんの愛娘だもん。うちの弥潮だって彼氏のくせにちゅーもえっちも許されてないしさ。でも手繋ぐのはおっけーなんだって」
「えっ、それって彼氏?」
 驚くのも無理はない。何しろ性行為に興味津々な年頃だ。それなのに手を握ることしか許されていないという。
「何か、赫夜がおれが嫁に行くまで何もさせるなと言ったとか何とか……覚えてないんだけど。酔ってたんかな」
 哀れなり、咲草弟――相沢と五嶋は見たこともない弥潮に同情した。
 そこへすらっとした白いドレスの女性が近付いてくる。
「やっと来たのね東条くん。式の時いなかったから来てくれないのかと思った」
「ああ、浅木……じゃなくて、もう奥井さん、か。おめでとさん。それにしても馬子にも何とやらだな」
「失礼ね! あ、こちら旦那さまの春海(はるみ)ちゃん。春海ちゃん、これが東条くんよ」
「あ、どうもどうも、奥井です」
 新郎がへこへこと頭を下げる。日焼けした肌、鍛えられた大きな体に、ひとのよさそうな笑顔――あだ名はクマだな、と壬廉はこっそり思いつつ、頭を下げた。
「東条です。この度はおめでとうございます」
「……あー、なるほどねー」
「は?」
「いやいや、何でもないですよ。そういえば東条さん、若いのにお子さんがいるとか?」
「正確にはいとこですけどね。身内がぱたぱた死んでったもんで、仕方なく養ってるんです」
「立派だなぁ。ぼくには到底できない」
「奥井さんは、浅木とは昔から親しかったんですか?」
「いや、年に二、三回会う程度だったんですよ。三年くらい前だったかな、付き合い出したのは」
「へぇ」
「苦労したんですよ、口説き落とすまで。何だか望みのうっす~い片想いをしていたみたいでね」
「そりゃ初耳だな」
 笑いながら、ちらりと花嫁を見る。香乃子は、微苦笑した。
「もう昔のことよ。そういえば、東条くん。あの子は元気でいる?」
「みんな同じこと訊くんだな」
「だって、東条くんの愚痴、いつもあの子のことばっかりだったんだもの。目覚まし壊されただの辞書貸したら表紙にいっぱいにチョコレートが付いててしかも固まってたただの。まぁ、聞いてて面白かったけどね」
「てめぇ、他人事だと思って」
「あはははっ、それっ、久々に聞いた!」
 香乃子はばしばしと夫の腕を叩く。太洋がこれこれ、と新郎新婦の間に腕を入れた。
「かのちゃん乱暴はやめなさいよ、旦那さんが困ってるでしょ」
「さっきー、あんた相変わらずベビーフェイスのくせにおばさんくさいねぇ! そんなんじゃ彼女できないわよ!」
「んー、まだ二十二だしー、慌てることないと思うなぁ、とボクは思うわけですよ」
「そっかー、女選び放題だもんねーホストって」
「いえいえ。我々クラブDのスタッフはレディーに夢を売るのがお務めですから。お客に手を出すなんて……まぁ、一部にはいるけどさ。あ、そうだ!」
 太洋は、ポケットからデジタルカメラを取り出した。
「じゃーん! 撮ろ! 旦那さん、奥さんまたちょっと借りますねー。ミカちゃん行こう」
 腕を引っぱられて壬廉はがくんとなった。
「おい太洋、五嶋と相沢は」
「ゴシーとアイアイはもう撮ったよ。あとは壬廉だけ。遅刻なんかするからさ」
「はいはい、さっさと行きましょうねー」
 太洋と香乃子に両脇を抱えられ、引きずられるように壬廉は庭園に出た。


「今頃どうしてるかな、ミカとたーちん」
 赫夜はもりもりと二つ目のフライドポテト(Lサイズ)を食べていた。
「きっと豪華なごちそうを食い荒らしているに違いない、いやきっとそうだ。それに比べて我らは何なのだ、こんなところで陳腐な恋愛映画を肴にしながら揚げたジャガタライモやらショボい肉とキュウリの漬け物なんかが挟まったパンやらカラメル色素に染まった炭酸飲料やらを飲み食いし……嗚呼この差は一体何なのだ」
「しょうがないでしょ、わたしら招待されてないんだし」
 ななみがさらりと突っ込んだ。
「ほんとに食べ物への執着が強い子ねぇ、姫」
「そんなことないもん。花嫁さんだって見たいもん」
「あら! あんた実は女の子だったのね!」
「生まれた時から女の子ですー」
 二人のやりとりに苦笑いしながら、弥潮がチキンナゲットを差し出した。
「赫夜ちゃん。よかったら食べる?」
「やっちーん!」
 赫夜は隣に座る弥潮を抱擁した。
「あんたほんとにええ男や! ナイスガイや!」
 やっぱりこの子、食べ物に対する執着がすごいなぁ――ということは、弥潮は口にしないでおいた。何よりこんなことで喜んでもらえる方が嬉しい。
「あとは引き出物だな!」
「姫。あんたまだ食べるつもり?」
「もちろんよ! 紅白すあまがわたしを待っている!」
「すあまが、じゃなくてあんたが待ってるんでしょ。そんなに食べると太るよ」
「ふぬっ!」
 赫夜の動きが、ぴたりと止まった。
 きりきりきり、とからくり人形のような動きで、弥潮を見る。
「やっちん……わたし、太ってる?」
「えっ」
「ねぇ、太ってる? 太ってるのっ?」
 必死だ。
 気圧されながらも、弥潮は首を振った。
「そそそっ、そんなことないよっ、赫夜ちゃんもうちょっと太った方がいいくらいだよっ」
「ほんとにっ?」
「ほ、ほんとに。……ちょっと、見て」
 弥潮は両手を広げて見せた。
「これ。それぞれほぼ二十四センチね」
「うん」
「ちょっと、立って」
 立ち上がった赫夜の腰回りに手を当てて計る。
「大体手二つ分と、……六センチちょいくらいかな? ウエストは約五十五センチ、という計算になります。ななみちゃん、これは細いよね?」
「……まあね」
「だから、赫夜ちゃんは、太ってないよ」
「よっしゃー! 食いまくるぞっ!」
 歓喜する赫夜を見て、ななみは弥潮にこっそり耳打ちした。
「嘘でも『太ってる』って言った方がよくなかった? あの子増長させると大変だよ?」
「うーん……もう、遅いでしょ」
 上島赫夜、無敵モードの発動である。


「もーちょい寄って、前出て……はい、撮るよー」
 太洋の合図で記念撮影。カメラの方を向いたまま、香乃子はぽつりと言った。
「ほんとに知らなかったのね」
「何を?」
「鈍いやつ」
「へ」
 壬廉はきょとんとして――次の瞬間、
「……えっ、はっ?」
 混乱した。
「浅木、」
「東条くん」
 太洋が、もういっちょ撮るよ、と言った。
「わたし、春海ちゃんとなら、シアワセになれると思う」
「……そうか」
「ほんとは、わたしね、言おうと思ってたの。卒業式の日に。なかなかドラマチックでしょ?」
「あんたが思いつきそうなシチュエイションだな」
 香乃子は、にこりと笑った。
「東条くんに告白しなくてよかった。してたら、多分何か変わってた。今もなかったと思うから」
「何で告らなかったんだ? もしかしたら成功するかもしれなかった」
「だって、東条くん、あの子のことばっかり話すんだもん」
「あれはおれの娘だぞ」
「だからよ。多分、東条くんは、わたしとあの子どちらか選べって言われたら、あの子を選ぶと思うから。わたしは、わたしを一番に思ってくれる人じゃなきゃ嫌。それが命運を分けたのね」
 写真を撮り終えた香乃子は、太洋のところに戻った。何やら楽しそうに話している。壬廉はタバコを取り出して点火した。
 どうして花嫁というものは、きれいに見えるのだろう。
 いや、

 浅木は昔からきれいだった。

 思わず苦笑いする。
「バぁー、カ」
 今更言うな、遅すぎるんだよ――という呟きは、爽やかな微風に流れて消えた。


「おかえりなさいませー」
「……ご機嫌だな姫さま」
 壬廉は引き出物の入った袋を赫夜に手渡した。赫夜ははしゃいで袋の中を探る。
「あれ。すあま入ってないよ? 鯛のおかしらは?」
「残念、洋食でした」
 ネクタイを外してベッドに放り投げると、冷蔵庫から缶チューハイを出してきてソファーにどっかりと座る。
「すあまはなくともケーキとか入ってるだろ」
「あっ! バウムクーヘン発見! でかい! これは気合いを入れて牛乳の用意だ!」
「待て赫夜。それ丸々一個一人で食うつもりじゃねぇだろうな」
「ミカはごちそう食ってきたでしょ。これはわたしがいただく!」
「そんなもんじゃなくてちゃんとめし食えよ」
「めしはもう食べた。咲草家で親子丼。あっ、ハム発見! 切ってくるねー」
 うきうきと台所に立つ赫夜の後ろ姿を横目で見ながら、壬廉はリモコンを手に取りテレビのチャンネルを変える。
「赫夜ぁ」
「何だねミカちん」
「お前さ、弥潮のこと好きか?」
「大好きー」
「そう言ったことあるか?」
「いつも言ってるー」
「あ、そ」
 どこまで本気なのだか。
「くそー。何でおれには女ができねーんだよー」
 浅木め、告ってくれりゃあ喜んで付き合ったのに。
「それは」
 厚さがバラバラのハムが無造作に乗せられた皿と牛乳パックを持った赫夜が、壬廉の足元にぺたんと座った。
「ミカが親父くさいからじゃん」
「誰のせいだよ」
「わたしがいなかったとしても、多分壬廉は親父だったよ。ななちんとやっちんの子守りで大忙し」
 あながち間違いではない。壬廉は言い返せなかった。そういえば、赫夜を竹やぶで発見する前は、太洋と一緒になってななみと弥潮のおむつの替え方を咲草家で習っていたような気がする。
「お客さんでいい人いないの? アキエさんは?」
「アキエさんはごひいきさんだし……何より彼氏彼女というよりぱっと見おれがヒモっぽいと思うんですよ赫夜さん」
「わたしは、アキエさんがお母さんでもいいのにな」
「ああ、今度会ったらそう言っとくよ。喜ぶぜ、アキエさんおれよりお前のこと可愛いみたいだから」
「ひひっ」
 とても年頃の娘とも思えぬ少年のような笑顔を見て、壬廉はふと思い出した。
 確かあの時もそうだった。

『かぐはやっちんをよめさんにする! むりだったらミカでもいい!』

 幼稚園児・上島赫夜は、傷だらけのいたずら小僧のような笑顔でそう豪語したのだ。

 ――おれは二番目かよ!

「可愛くねぇ娘だな」
「あい? 何?」
 壬廉はチューハイを飲み干し、缶を強く握った。べこべこと音を立てて缶が潰れる。
「飲み足りねぇ。酒買ってくるわ」
「あっ、アイス買ってきて。チョコのやつがいいな」
「てめぇまだ食うつもりかよ。太るぞ」
「うぬぅっ!」
 がくりとソファーに突っ伏す赫夜を放置して、壬廉は外に出た。西の空に、白い三日月が浮かんでいる。
「三匹の誕生会、どっか予約入れとかねぇとな……」
 ケーキはアキエさんとこのでいいとして。あとは何をやるかだ。早く決めないともう一週間しか――なんて考えていたが、ふと我に返る。
「こんなだからいかんのかなぁ……」
 これじゃまるで本当にパパだ。

 東条壬廉、二十三歳。ちょっと切ない初夏の宵だった。





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 昔仲が良くてちょっと気になっていた子が、本当は自分のことを好きだったらしいと知ったのは彼女の結婚式という。

 何ともほろ苦い思い出ですな。






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中の人

HN:
半井
性別:
女性
職業:
ごはんをつくるヒキコモリ
趣味:
なんかかくこと
自己紹介:
チーズと鶏肉でホイホイ釣られるチョコミン党員しょうゆ厨
原産:駿河国
生息:伊賀国

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